そんな恋のハナシ

□悪 戯 -イタズラ-
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「仕方のない人ですね。せっかく見逃してあげていたのに」

 庸介より年下であるにも関わらず、男は自分が支配者なのだと印象付けるような物言いをした。
 フレームレスの眼鏡の奥に妖艶な光を孕ませる男に、本能的に危険な匂いを感じて後退りした庸介だったが、寸でのところで踏みとどまった。
 年下の男に気圧されていては、男として、そして上級生として沽券に関わると思ったからだ。

 しかし内心怯えている庸介の気持ちを見抜いているのか、男はさらに庸介に近づくと口角を吊り上げた。

「貴方が悪いんですよ? 俺を煽るから」

 年下とは思えない艶やかな色気を放ち、男――犀川は、壁を背負った庸介に、ふと艶笑を浮かべた。

「責任、取って下さいよ――先輩」




【悪 戯 -イタズラ-】




 人は誰しも、気の合わない人間の一人や二人はいるものだ。

 そんな場合どう対応するか? 

 大抵の場合素知らぬふりをして、やり過ごすのが普通だろう。
 しかしその“気の合わない人間”が、自分と同じ部屋の住人だったらどうだろうか。

 小松原庸介(こまつばらようすけ)は、今年入学したばかりの後輩であり、この春よりルームメイトになった犀川樹(さいかわいつき)を見て、小さく溜息を吐いた。

「……お前さ、その仏頂面、なんとかなんないワケ? 見てるとこっちが苛つくんだけど」


 
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