そんな恋のハナシ
□堕天-falldown-
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夜の街は、何もかもを覆い隠してくれる。
それは俺たちの年齢だったりとか、路地裏でこれから行おうとしている犯罪行為なんかも例外じゃない。
喧騒が、闇が、何もかもを呑み込んで、虚ろなブラックホールと化している。
「――‥」
ポケットの中のケータイが震えた。
『いつものホテル。五分後』
簡潔なメールの内容は、今日のカモが捕まったことを表している。
俺は地面を蹴って、足早にいつものホテルに向かった。
歓楽街から少し外れた路地裏にある、どこか淫猥な光を醸し出すネオン。
いわゆるホテル街に足を踏み入れると、ワケアリに見えるカップルと大量にすれ違う。
目的のホテルが見える電柱の影に身を潜めると、目当てのカモが好色なツラをぶら下げて歩いてきたところだった。
今日のカモは、五十前後ってところだ。
薄くなった頭髪。よれたスーツが仕事に疲れたサラリーマンそのもの。
バカだな、と思う。
日常生活からはみ出さなければ……仕事が終わって、まっすぐ家に帰ってれば、こんな目に遭わなかったのに。
これからオッサンに起こるのは、ハードラック?
いいや、そうじゃない。
帰る家があるくせに帰らない贅沢が引き起こす、ただのアクシデント。