太陽と月の恋物語

□第十二話
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「やっぱおかしくねぇか?杏がこんなに長い間巡察から帰ってこねーとか考えらんねぇって!」

近藤さんと土方さんと山南さんも広間に来たのにまだ杏が帰って来ていない。
もう我慢ならないとばかりに平助が口を開いた。


「…平助の言うとおり、仮に何か事件があったとしても杏ならそこまで手こずる事は無いだろうしな」
「そうだねぇ。平助君が杏ちゃんの事が気になってしょうがないのは兎も角、杏ちゃんに限って仕事で手こずるなんてのはあり得ないね」
「だから俺は別に気にしてなんかっ…!」
「はいはい。……で、どうします?土方さん?」
「どうするも何も、あいつの事だ。どうせもうすぐ帰って来るだろ。お前らは心配しすぎだ」



あいつはあれでも零番組の組長だぜ?



そう言って微笑する土方さんには何もかもお見通しな様で。
遠くの方からドタドタと騒がしい足音が聞こえた。
段々とこちらへ近づいてくるそれ。途中でビタンッ、と派手に転んだような音も聞こえた。






『た、ただいま…!』


――ピシ

なんて音がぴったりだった。
皆、ずぶ濡れの杏の姿を見て驚きのあまり固まってしまったからだ。


「杏ちゃん!?ど、どうしたのそれ!!」

最初に口を開いたのは千鶴だった。


『いや、さっき走ってたら滑って転んじゃってさー、ははは!
痛いのなんの!やっぱ濡れたまま廊下走るもんじゃないね、うん!!』

言われてみれば、額が少し赤くなっている。


「いや、それ以前の問題だろ!何で濡れてんだよ!!」
『え?あぁ、うん。鴨川飛び込んだ』
「そうかなるほど鴨川になぁ…って阿呆かお前は!」
「あはは、杏ちゃん、君ってほんと面白い子だねぇ」
『あたしは阿呆じゃない!馬鹿ではあっても阿呆じゃない!!』
「…いや、そこ胸張って言う所じゃないだろ」
「そ、そんな事より早く体を温めないと…!!」
『大丈夫だよー、千鶴ちゃん。あたしこれでも体は丈夫な方…っくしゅん!』
「真冬に川に飛び込んで大丈夫なわけ無いよ!」
『でも土方さんに巡察の報告が…』
「んなもんお前んとこの隊士に聞きゃいい話だろ。お前は風呂でも入って寝てろ」
『ちょ、寝てろってあたしまだ熱出てないよ?』
「うるせぇ、これは副長命令だ!」
「トシの言う通りだな。こういうのは早めに休んでおいた方が身のためだぞ?杏君」

土方さんの言葉に納得したのかうんうんと頷く近藤さん。


『う、近藤さんまで……』
「じゃあ、千鶴。杏の事頼んだぞ」
「はい!じゃあ早速お風呂の準備しますね」
『え、ちょ?千鶴ちゃん?』
「よし行こうか杏ちゃん。早く体温めないとねー!!」
『え、……うおぅっ!?』


ぐいぐいとあたしの腕を引っ張る千鶴ちゃんは何だかイキイキしているように見えた。



2011.01.30

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