太陽と月の恋物語

□第二十七話
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風間千景、天霧九寿、鬼、薩摩…。

『…はぁ、』


何だったんだ、あいつら…。
ほとんどが謎だ。けど、分かる事が一つ――

『あのまま戦ってたら、負けてた…だろうな』


あいつ…風間は確かに自分は【鬼】だと言った。
確かに、鬼だというのならばあの強さにも納得がいく。
それはつまり、あたしと同じってことで。
あたしがあの姿になって戦ったとしても向こうも同じようになれるわけで、結果は目に見えてたってわけだ。

『っ、このままじゃ…駄目だ』


一人呟いて、拳を握りしめた。






***

『っし、行くか…!』


夕飯を食べ終え、部屋に戻るなり刀を取って壬生寺へ向かった。
壬生寺はいつも隊士達が武芸や大砲の訓練を行っている場所だ。けど、夜なら話は別。
誰もいないから集中できるし、隊士達の睡眠を妨げる事もない。

『風間の野郎、次会った時覚えてろよ…!!』


秘密の特訓、今日から開始だ!!






***

『ふ、ぁ…』


大きな欠伸を一つ。
朝ごはんを食べるべく広間に行ったはいいものの、少し早く来すぎたようだ。
皆を待っている間ぼーっとしていると、一番最初に平助が広間に来た。…めずらしい事もあるもんだ。

「昨日夜更かしでもしてたのか?」
『ん、まぁ…ちょっと、ね』


昨日、刀を振り回してたのはいいものの熱が入り過ぎて気がついたら朝だった…なんて口が裂けても言えない。

『そういう平助は朝から元気そうだね』
「おー。朝から近藤さんと土方さんに呼ばれたから目も覚めるっつの」
『ふーん。で、何やらかしたわけ?』
「いや、やらかしてねーから!出張命令出されたの!!」
『あー…、前言ってた新入隊士募集の?』


何か、この前土方さんが言ってたような気がする。
近々江戸に新入隊士を募集しに行くとかなんとか…。

「そ、北辰一刀流繋がりで伊東さんってのがいてさ。その人誘ってみようかと思って」


北辰一刀流かぁ、懐かしいな。
まだ北辰一刀流門下生だった平助が、よく試衛館に自称道場破りに来てたっけ。
昔の事を思い出してると気づかないうちに顔が緩んでいたらしく、平助に何笑ってんだよ気持ち悪ぃと言われた。

『ちょーっとニヤけてただけじゃん。気持ち悪いとか酷過ぎない!?』
「ほんとの事だろ?」
『昔の事思い出してたの!懐かしいなあ、【北辰一刀流の平助君】が今や魁先生だよ。ぷぷっ』
「っ、その話はやめろー!」


ぎゃあぎゃあ、朝から二人して騒いでると朝ごはんを食べにみんなが集まって来て。

『あっはははは!お腹がよじれるーっ!!』
「いい加減笑うのやめろーっ!」
「おいおい、何してんだよお前ら」
「杏は何で朝っぱらから爆笑してんだ?」
「ちょっと聞いてよ左之さん新八っつぁん!杏がさぁ!!」
『くくっ、いや…だって……っあはは!』
「笑うなーっ!」
「随分楽しそうだね。何してんの?」
「…朝から騒がしい」
「おや、みんな揃って何してるんだい?」


総司と一君、源さんもやってきて、試衛館の顔ぶれがほとんど勢揃い。

『いや、ちょっと思い出し笑いしちゃってさ。皆も懐かしいと思わない?【北辰一刀流の平助君】!』
「おっ、懐かしいな」
「いっつも朝早くから夜遅くまで杏に勝負挑んでたっけか」
「そうそう。ほんと、うっとうしいぐらい毎日来てたよね」
「お互いに切磋琢磨するのはいい事だが…。最後の方になるとじゃんけん勝負になっていた事もあったな」
「思えばあの頃から二人は仲がよかったからねぇ」
『「いや、仲良くないから!」』


見事に声が重なった。
マネしないでよね平助、と軽く睨んで言ったら平助も負けじとお前がマネしてんだろ!と言い返してきた。

『そっちがマネしたんでしょ!』
「いやお前だろ!?」
『よっしゃ表出ろや今から勝負だこの野郎!』
「おうおう受けて立ってやんよ!後で泣いても知らねぇからな!」
『その言葉そっくりそのままお返しするわ!』
「んだとコラ!」
『やんのか?あぁん!?』


お互いに睨み合っている時だった。
あのっ!、と突然大きな声が耳に入った。

「あの、喧嘩は…よくないです、よ?」


皆からの視線が恥ずかしいのか、おずおずと千鶴ちゃんが言った。
その姿はなんだかまるで小動物のようで。
何というか、そう……めちゃめちゃ可愛い。

『はうっ』
「杏ちゃん…?」


千鶴ちゃんの可愛さにあたしの心臓は射抜かれてしまったようだ。
くそう、可愛いな…!

「もう喧嘩しないでね?」
『うん、千鶴ちゃんがそう言うならもうしないよ!ね、平助!!』
「お、おう!」
『喧嘩しないから千鶴ちゃんっ!是非うちの嫁に……へぶっ!』


千鶴ちゃんの手を取ってそう言ったら頭上から奇襲攻撃…もとい左之さんからの手刀が落ちてきた。

「馬鹿、朝っぱらからなに口説いてんだよ。しかも同性に」
『痛いじゃんか左之さん!』
「ああ悪ぃ、手加減したつもりだったんだけどな」
「左之さん杏に手加減なんか無用だって」
「そうか、じゃあ今度から本気で…」
『うわーん!千鶴ちゃーん、源さーん!左之さんと平助がいじめるー!!』


千鶴ちゃんと源さんに泣きつく。
いや、嘘泣きだけど。
武士たる者、人前で涙を見せちゃ駄目だからね!

「あっ、てめぇ汚ねぇぞ杏!」
『は、平助なんかに千鶴ちゃんは渡さん!お父さんは許しませんからね!!』
「誰がお父さんだ誰が!!」
『あたしに決まってんでしょーが』
「いや、何でそんなに得意気!?意味分かんねぇっつの!」
『それは平助に理解力が無いからでしょ』
「んだと!?」
『あたしは事実を述べたまでですぅー』
「てんめっ…!」


むにっ、あたしの右頬を平助が抓る。

『痛っ!何すんのさ!?』


むぎゅう、負けじと平助の左頬を抓り返す。

「いってぇ!!何すんだよ!?」


痛いっ!髪の毛引っ張ったね!?、いでででっ!足踏むな馬鹿!!
どんどん加熱していく二人の喧嘩を余所に千鶴を除いた幹部達は既に朝ごはんに手をつけていた。

「あの、止めなくていいんですか…?」


千鶴がおろおろしながら聞くと原田がはぁ、と溜め息を吐いて答えた。

「ああなったらもう駄目だ。止められるのは近藤さんと土方さんと山南さんだけだからな」
「…あの二人の喧嘩をいちいち止めに入っていたら限がない」


原田に続いて斉藤も味噌汁を啜りながら言った。

「ほら、喧嘩するほど仲がいいってよく言うしね。それに、そろそろ止めてくれる人たちが来てくれるんじゃないかな?」


そう言ってけらけら笑う沖田の言葉の通り、広間に近づく三人の足音が聞こえてくるのだった。











「てめぇら朝っぱらからなに喧嘩してんだ!!!」
「また喧嘩していたのか…平助、杏君」
「隊士達の模範となる組長ともあろう二人が喧嘩をしているというのは、関心できまでんね」
『「…ごめんなさい……」』
「罰として、俺が良いと言うまで俺の部屋の外で正座してろ」
『「はい…」』

その後しばらく、副長室の前で仲好く正座している零番組組長と八番組組長の姿が見られたとか。


***
なんでだろう、平助君を出したらどうしてもギャグ方面にいってしまうorz
今回はちょっと試衛館時代の事をチラつかせてみましたw
また今度じっくり書くときがあるかもです(^^)


2011.08.12

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