太陽と月の恋物語

□第十八話
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「杏、」

杏の部屋の前で返事を待つが、返事は返ってこない。


「…入るぞ?」

襖を開けて中に入ると書類整理をしている杏がいた。
大阪から半日で帰ってきたって、源さんが言ってたのに。


「山南さんの事、聞いた」

杏はぴくり、と少し肩を震わせた。
やっぱり、気にしてんのか。
山南さんの事は大体聞いた。
もしかしたらもう二度と剣を握ることができなくなるかもれない事も。
…山南さんが怪我をしたとき、その場にいたのは杏だけだったらしい。
もしかしたら、自分のせいとか思い込んで一人で背負い込んでんじゃないのかと思って部屋に来てみたら案の定だ。


「…大阪から半日で帰ってきたんだって?皆心配してたぜ。書類整理もいいけどさ、ちゃんと休めよ」

そう言い残して部屋から出ようとしたときだった。


『…平助、』

今にも消え入りそうな声で、それでも確かに、杏が俺の名前を呼んだ。


『山南さんが怪我したの、あたしのせいなんだ…』

俺に背を向けたまま、そう告げた。


「お前が、そう思うのは勝手だけどさ。少なくとも山南さんは杏のせいだとか思ってねぇしそんな事望んでねぇと思うぜ?」
『でも、』
「斬った張ったを繰り返してんだ、俺達は。
そんな事やってたら怪我だってするし下手したら死ぬかもしれねぇ。それを覚悟して俺達は新選組やってんだ、そうだろ?」
『うん』
「お前が落ち込む事はねぇよ。いつもみたいに馬鹿やってろ」

ぐりぐり、と乱暴に杏の頭を撫でて笑うと杏は滲み出ていた涙を拭って小さく、頷いた。









『…平助ってさ。偶に、ほんっとーに偶には良い事言うよね』
「おい待て、ちょっと待て、馬鹿にしてんのかおい」
『嫌だなあ、褒め言葉だよ平助君』
「いや、それのどこが褒め言葉!?」



2011.05.21

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