太陽と月の恋物語
□第二十一話
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「そんなに怒ることないじゃないですか。僕たちは、長州の間者を捕まえてきたわけだし」
巡察中に起きた大捕り物の後、私と総司と千鶴ちゃんは広間で山南さんのお説教を正座で延々と聞かされていた。
「怒ることではない?沖田君は面白いことを言いますね」
にっこり、山南さんが黒みを帯びた笑みを浮かべた。
「枡屋喜右衛門と身分を偽っている人間は、長州の間者である古高俊太郎だった――
我々新選組はその事実を知った上で、彼を泳がせていた。……違いますか?」
山南さんの言っていることは間違ってない。
だからあたしはただ黙って山南さんの話を聞いているんだけど…。
「その通りですけど……。でも、捕まえるしかない状況だったんですよ」
総司は口をとがらせて反論している。
「ま、総司の言うとおり、ある意味では大手柄だろうな」
見かねた左之さんが助け舟を出してくれた、のだけれど…。
「でも古高を泳がせるために頑張ってた島田君や山崎君に悪いと思わないわけー?」
『うぅ…』
平助がからかうような口調で言った。
でも平助が言ってることは本当の事だ。
『島田君、烝君…ごめんっ!』
二人の方を向いて勢いよく頭を下げた。
「紅桜組長!?あ、頭を上げてください!私らも古橋に対して手詰まりでしたから、組長方が働いてくれて助かったんですから」
『島田君…』
「古高捕縛は、既に済まされた事柄です。その結果に不満を述べるつもりはありません」
『うあああーごめんよ烝君!!』
がばっ、と烝君に抱きついたら何故だか平助に引きはがされた。
人がせっかく感動してたのに、何なんだ。
「お、おおおお前なあ!何やってんだよ馬鹿!」
『はぁ?意味分かんないんだけど。ってか何で顔赤いの?』
「うるせぇっ!馬鹿!!」
『語尾が馬鹿になってるよ!?』
「〜っ、もういい!」
『えぇっ!?』
何だ、気になるじゃないか!
『…左之さん、平助どしたの?』
「いや、まぁ…平助も悩み多きお年頃ってやつだな」
『うん…?』
意味分かんないんだけど、と返すと左之さんは苦笑いして平助も大変だな…なんて言っていた。
***
それからも山南さんのお説教はまだまだ続いた。
「組長が二人もついていながら監視対象を見失うなど……。全く、情けない事もあったものですね?」
『…ぅ、』
怖い怖い怖い、山南さん怖いよ!笑ってるけど目が笑ってないよ!!
「外出を許可したのは俺だ。こいつらばかり責めないでやってくれ」
土方さんは部屋に入るなり山南さんに向けて声をかけた。
山南さんは苦笑いを浮かべたけど、苦言を呑み込んで口を閉ざした。
「…土方さんが来たってことは、古高の拷問も終わったんですか?」
左之さんの言葉に土方さんは平静そのままの表情で頷いた。
ってか、拷問って…あの拷問だよね。
『ね、新八っつぁん。今回の拷問って…』
小声で近くにいた新八っつぁんに問いかけた。
「あぁ。中々吐かねぇから、途中で俺が蝋燭と五寸釘持ってったぜ?」
『うっわ、土方さん鬼畜ー…』
「俺が何だって?」
『いいえ何でも?で、どうだったんですか?』
「お前今話逸らしただろ」
『な、何の事だか?』
「まぁいい。…本題に入る」
土方さんのその言葉で場の空気が一気に張り詰めた。
「風の強い日を選んで京の都に火を放ち、あわよくば天皇を長州へ連れ出す――
それが、奴らの目的だ」
土方さんの声が広間に響き渡ると同時に皆それぞれ渋面を作った。
「町に火を放つだあ?長州の奴ら、頭のねじが緩んでるんじゃねぇの?」
「それ、単に天子様を誘拐するって事だろ?尊王を掲げてるくせに、全然敬ってねーじゃん」
『それだけ追い詰められてるって事なんじゃないの?』
「…何にしろ、見過ごせるものではない」
一君の言葉に全員が頷いた。
「奴らの会合は今夜行われる可能性が高い。てめぇらも出動準備を整えておけ」
「…了解しました、副長」
「よっしゃあ、腕が鳴るぜぇ」
皆様々な反応を見せながらも、土方さんの言葉に了承の意を示した。
「…それから、鋼道さんの件だが。長州の者と枡屋に来たことがあるらしい」
「え?」
鋼道さんが長州と関係持ってる…?
千鶴ちゃんを見るとやっぱり動揺を隠せないようだった。
2011.06.09