太陽と月の恋物語

□第二十三話
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会合は四国屋か池田屋のどちらかで行われる。
土方さん率いる四国屋組二十四名と近藤さん率いる池田屋組十名が二手に別れて数刻。
私達四国屋組が四国屋に向かっている時だった。

『っ、何か来る…!』


手で後方の隊士達を制して足を止めた。
隣を歩いていた土方さんもそれに気がついていたらしく、足を止めていた。

「何やってんだ、てめえは」
『ちょ、え?千鶴ちゃん!?』


へなへな、と息を切らしてその場に座り込んでいたのは屯所で留守番だったはずの千鶴ちゃんだった。
そして、千鶴ちゃんが口にした言葉は衝撃的な事だった。

「ほ、本命は…池田、屋……」


池田屋に向かったのは十名。
池田屋で会合している浪士は恐らくそれ以上。
いくら近藤さんや新八っつぁん、総司に平助といった剣豪がいたとしても数には勝てない。
先の岩城升屋事件…山南さんが左腕を怪我した時に痛感したことだ。

「本命は、あっちか」


土方さんの言葉にこくこく、と頷く千鶴ちゃん。

『会津や所司代は、もう池田屋にいるの?』


ここまで走って来たのだろう、呼吸が乱れて上手く話せないようで、千鶴ちゃんは首を横に振って答えた。

「斎藤と原田は隊を率いて池田屋へ向かえ」
「御意」
「了解」


頷いて二人は即座に動き出す。
そして土方さんは私を見て。

「杏は単独で池田屋へ向かえ。お前は夜の闇に慣れて足も速い、即戦力になる」
『土方さんは?』
「俺は余所で別件を処理しておく。こいつは俺が連れて行く」


今度は千鶴ちゃんの方を見て言う。
確かに、激戦が繰り広げられている池田屋よりも土方さんに着いて行った方が安全だ。
あたしはこくり、と頷いて羽織を翻して池田屋の方向へと走った。



***

刀の交わる音、断末魔…そして、血の臭い。
池田屋は殺戮会場に姿を変えていた。


「紅桜組長!」
『武田、谷、浅野!』

敵を逃がさないように表口を固めているのだろう三人が自分に気づいて近づいて来た。


『中は、どうなってる』
「近藤局長が先陣を切られて、その後を永倉組長、沖田組長、藤堂組長が…」
『敵の数は?』
「三十前後かと」
「それから、藤堂組長と沖田組長が…負傷したものと思われます」
『っ、僕はこれから突入する。お前らはこのままここを守れ。誰一人として逃がすな!』

言い終わる前に刀を抜いて入口に突入した。


『新八っつぁん!』

入って最初に目に入ったのは土間で戦う新八っつぁんだった。


「杏か!?」
『っ、うん!』

近くにいた浪士を斬り伏せながら、声を張り上げる。
この人数からして主戦場はここ、一階。
敵は逃げるためにどんどん二階から下りてきているようだ。


『平助と総司は!?』
「平助はこの奥だ。たぶん、眉間を斬られて戦える状態じゃねぇ。
総司はよくわかんねぇが上で浪士と一騎討ちしてるみてぇだ」
『っ、平助はあたしが何とかする。もうすぐ左之さんと一君が隊を率いて来る、それまで持つ?』
「ったりめーだ!平助は任せた!!」

こく、と頷いて平助のいる方へと向かった。



2011.07.12

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