太陽と月の恋物語
□第二十五話
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「痛っ、痛いって、ちょ…痛ぇって言ってんだろ!!」
八番組組長、藤堂平助の声が屯所中に響いた。
『傷口に薬塗るだけで悲鳴上げないでよ』
「お前の塗り方がおかしいんだろーが!もっとこう、優しくできねぇのかよ!!」
『十分優しくやってるんだけどなぁ』
「どこが!?」
池田屋事件から暫く経って、総司と平助の怪我も大分治ってきた。
平助に至っては元気すぎてうるさいぐらいだ。
……それにしても。
あの総司と平助に怪我を負わせる程の実力者…金髪の男と平助の額を鉢金ごと割った赤髪の男。
長州藩士じゃないのに何で池田屋に…?
なんて考えていると巡察から、左之さんと新八っつぁんが帰ってきたようで。
『あ、左之さん新八っつぁん。巡察お疲れー』
「おう。平助、お前の悲鳴外まで聞こえたぞ?」
「なっ、嘘だ!」
「嘘じゃねぇよ」
『うわー、平助。恥ずかしいーっ!』
「誰のせいだと思ってんだ!」
平助が怒りのあまり立ち上がったときだった。
近藤さんが、広間に入ってきたのは。
「会津藩から正式な要請が下った。只今より、我ら新選組は総員出陣の準備を開始する!」
おお、と歓喜の声が広間に響いた。
***
『平助、残念がってたねー』
山南さんと総司、平助は怪我や体調の問題で屯所守護、所謂お留守番というわけで。
平助は最後まで文句を言っていた。
「ま、今回ばかりはしょうがねーだろ」
『千鶴ちゃんも屯所だしー』
近藤さんが伝令役になってくれないか、と言ったのだけれど当の千鶴ちゃんは足手まといになるからと断ったみたいで。
そんな事ないのになー…。あ、でも怪我させちゃ駄目だもんね、うん。
『伏見奉行所に来たはいいけど所司代は取り合ってくれないし』
「まぁ、俺たちの扱いなんてこんなもんだろ」
『…そーだけど』
「会津藩邸から九条河原に行けって言われたんだ。今度は大丈夫だろ」
にっ、と新八っつぁんは笑って。
これ以上ぐだぐだ言っても無駄か、とあたしは苦笑い。
そんなこんなで九条河原に着いたのは日暮れ時。
なのに…
「新選組?我々会津藩と共に待機?
そんな連絡は受けておらんな。すまんが藩邸へ問い合わせてくれるか」
会津藩士でさえ新選組を見て首を傾げる始末。
この扱いに、新八っつぁんの堪忍袋の緒が切れた。
「あ?お前らのとこの藩邸が新選組は九条河原に行けって言ったんだよ!
その俺らを適当に扱うってのは、新選組を呼び付けたお前らの上司をないがしろにする行為だってわかってんのか?」
「っ、それは…」
まくし立てられた藩士が言葉に詰まると、近藤さんは大らかな笑顔と共に口を開いた。
「陣営の責任者と話がしたい。……上に取り次いで頂けますかな?」
こうして、あたしたちは九条河原で待機することを許された。
それから暫くして、今後の動きについて会津側と相談をしていた近藤さんと井上さんが疲れた顔をして帰ってきた。
「……どうやらここの会津藩兵たちは、主戦力じゃなく予備兵らしい。
会津藩の主だった兵たちは、蛤御門の方を守っているそうだ」
『新選組も予備兵扱いってか。屯所に来た伝令の話じゃ、一刻を争う事態じゃなかったっけ?えらく余裕じゃん』
「状況が動き次第、即座に戦場へ馳せる。今の俺たちにできるのは、それだけだ」
「夜襲が無いとも限らねぇしな…」
溜め息混じりに左之さんが言った。
今夜は一晩中、気が抜け無さそうだ。こんなことなら昼寝しておくんだった…。
「おい杏、お前今、昼寝しとけばよかったーとか思っただろ」
『な、何故それを!』
「…顔に出ている」
『まじでか。いやん恥ずかしい!』
「「………」」
『や、やだなあ左之さん一君!そんな冷たい目で見ないでよ冗談だって、冗談!!』
***
池田屋の次は禁門の変!
平助君の出番が…orz
2011.07.19