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□クリスマスイブは君と一緒に
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 カレンダーがめくられ、今年も最後の月が巡ってきた。ついこの間まで暖かな陽気が続いていたと言うのに、12月も1週目を過ぎた辺りから一気に気温が下がり始め、それまではゆっくりと変化していくだけだった人と木々が纏う装いは、一気に様相を一変させていった。人が重ね着をして寒さに備えるのに対して木々は鮮やかに色を変え、風に吹かれてははらはらと枝から葉を落とし、冬に耐えながら新たな命が芽吹く春を待ち望むのだ。
 自然が織り成す趣を臨也は素直に美しいと思えるようになった。以前なら気にも止めなかった様々な事象でさえ、恋人――静雄の存在ひとつで180度見方が変わってしまったのだ。
 純粋で無垢な静雄の優しくて穏やかな心に触れ続けているのだから仕方ないのかもしれない。けれども、それを決して疎ましく思うことはなかった。
 要するに、そう、今自分はとても幸せなのだ。だからすべてを受け入れられるし、受け止められる。
 ふう、と息をつく。次いで自然に表情が笑顔になっていくのが自分でもわかった。
 幸せ過ぎてどうしようもなくなってこぼれ落ちてくる溜息もあるのだと言うことを臨也は静雄と恋人同士になって初めて知った。きっと、静雄に出会わなければ一生知ることはなかっただろう。以来、息をついた後、臨也は決まって穏やかな笑みを浮かべるようになった。
 もう一度、ふう、と臨也は息を吐き出した。もちろん笑顔を崩さないままで。ここが外なら、幸せを乗せた息は冷気に触れ、白を描き、空気中をしばらく漂った後消えていくのだろう。
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