静雄はサンドウィッチを口に押し込みながら目の前の光景を見たくなくて空を見上げた。
校舎の中の閉鎖された空間とは違い、屋上から望む開放された世界に静雄は心を移していく。頭上に広がる空には連日の雨模様が嘘のように梅雨晴れが広がっている。しかし、青く澄み切った空を横切るように放射状に伸びている灰色を残した雲を視界に捕らえた瞬間、まるでそれが自分自身を投影しているかのように思えて耐え切れず目をそらした。結局、逃れようとして選んだ場所なのに逆に追い詰められてしまった。
どうしようもなくなったところで左手に持ったイチゴ牛乳のパッケージが目に留まった。仕方なく、成分表を眺めることでやり過ごすことに決めた。
聞きたくない、知りたくないと必死に別のことを考えようとした静雄だったが、その努力も空しく。結局、耳が勝手に拾ってしまう言葉を聞き流すことは出来なかった。
「ねえ、ドタチン、その唐揚げと卵焼きもちょうだい」
「ん?ああ、いいぞ。ほら、臨也」
「ドタチン、ありがとう。大好き!」
先程からこの繰り返しだった。別に和気あいあいとしていてそれは良いことだとは思う。
けれども、静雄自身の存在を無視した形でのやり取りに正直、段々といたたまれなさを感じてきた。確かに臨也は静雄のことが死ぬほど大嫌いで、門田はそんな臨也に唯一と言っていいくらい懐かれている、まるで保護者そのものみたいな男だ。そんなふたりの仲を裂くことなんて、所詮他人でしかない静雄には出来なかった。だから仕方がないのかもしれない。
無理矢理結論づけても空しさが募るだけなのはわかっていた。でも、そう思わずにはいられなかった。