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□君を守りたい
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 その日も自分の名を上げたいのか、ただの命知らずか、とにかく揃いも揃って馬鹿な不良たちに静雄はいきなり取り囲まれた。
 本当に、どこから湧いてくるのだろうか。名前も顔もまったく知らない不良たちに、毎日のように喧嘩を吹っ掛けられるこっちの身にもなってみろ。心底うんざりして、それでも静雄は内心の怒気を吐き出すように溜息をつくことで平常心を取り戻すことに専念した。相手にするのも面倒だった。静雄は無視を決め込んで踵を返すと不良たちを置き去りにして歩き出した。
 けれども、不良たちは静雄が恐れをなして逃げ出したのだと勘違いして、こちらの神経を逆撫でするような下品な言葉を平気で口にしたものだから、ついに我慢の限界に達してしまった。不良たちを黙らせようと静雄は止まれの標識に手を伸ばし、握り締めると同時に圧し折ると、そのまま軽々と持ち上げてみせた。静雄が取った一連の動作を目にしてようやく不良たちは喋るのをやめた。驚きに目を見張った後、不良たちが一様に恐怖で青ざめていくのを見て、静雄はわざと好戦的な笑みを浮かべながら標識を地面に叩きつけた。
 相手の戦意を喪失させることが狙いなのだが、喧嘩を売ってくる輩の反応は二通りあった。尻込みして脱兎の如く逃げ出すか、または敵前逃亡と言う、面目丸潰れ状態が嫌で、そんな大したことのないちっぽけなプライドを守るために愚かにも立ち向かってくるか。そのどちらかだった。
 ――さて、今回はどっちだろう。そう思案して、静雄は笑みを消した。
 追い詰められていく不良たちとは違い、理性が残っている静雄はいつもそうやって冷静に状況を分析していた。慣れている訳じゃあない。なにか別のことを考えていなければ、理性の箍なんてあっけなく外れてしまうからだ。それがどれほど空しいことか、目の前の馬鹿な連中には決してわからないだろう。
 目の前の連中が負けるとわかっていても殴り掛かってくるならば、仕方ないが大嫌いな暴力を以て応戦するしかないだろうな――静雄はそう考えて顔をしかめた。
 本当は自分の暴力を誰かに向けるのも「化け物」と悪声を喚かれるのも御免なのだ。
 体だけではない、いつだって心まで深く傷付くから。
 それなのに、不良たちは毎日休む間もなく静雄に喧嘩を吹っ掛けてきた。
 街中で大立ち回りを演じ続けていれば、いつかは不良たちも自分に恐れをなして近付いて来なくなるかもしれない――そんな風に安易に考えていた頃が今では懐かしく思えた。
 もう、うんざりだ。
 しつこい不良たちにも、それに馬鹿みたいに付き合ってやっている自分自身にも。
(本当、馬鹿みてえ)
 静雄は内心で毒づきながら今度は自嘲気味に笑った。
 

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