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□嘘と涙と笑顔
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 今までの静雄ならば臨也が訳のわからない態度を取ろうものなら苛々するか忌ま忌ましく思うか、とにかく負の感情しか浮かんで来なかった。けれども、紆余曲折の末、晴れて……とは言い難いが、恋人同士となった現在ではそういった感情よりもやはり不安に思ってしまう気持ちの方が強すぎて。しかも治まることを知らずに膨れ上がっていくものだから堪らなかった。
 まだお互いを嫌い、憎しみ、その上殺してやりたいとさえ思っていた頃は臨也の話す言葉すべてが気に入らず、鬱陶しいと一蹴してきた。しかし、臨也と恋人同士になってからは確かにうんざりすることも多かったが、以前のようにもう聞きたくないと耳から耳へと流すことも、脳内に入ってくるのを全力で阻止することもなくなった。逆に、口下手な静雄に代わって終始喋りつづけている臨也にあきれながらも、常に場を盛り上げてくれる彼に感謝さえするようになった。怒ったり、笑ったり、恋人のころころ変わる表情と声音を見聞きする度、本当に安らいだ気持ちになれた。
 しかし、今隣に座っている臨也は喋ってもくれないし笑ってもくれないし、その上目さえも合わせてくれない。そんな姿を見続ければ、静雄の不安は更に増してしまうと言うもので。
(俺、なにかしたのか?)
(臨也、なに怒ってるんだよ?)
(どうしたら機嫌を直してくれるんだよ?)
(ごめん、ってあやまれば良いのかよ?)
(でも、どうして怒ってるのかわからねぇのにあやまったりしたら、臨也が余計に怒っちまうよな)
(なあ、臨也、俺はどうしたら良いんだ?)
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