main

□知っていたよ、泣き虫さん
2ページ/8ページ


 クラスメイトが出て行った教室の扉から視線を離し、仏頂面の静雄と満面の笑みを張り付けた臨也を交互に目にした新羅は、これはまた長くなりそうだなと内心で溜息をついた。不穏な空気を察知した新羅は巻き込まれないため、愛しい恋人との大切な時間を邪魔されないため、それを回避しようと今夜の予定を説明することで乗り切ろうと考えた。
「今日は愛しいセルティと映画を観ることになってるんだ。父さんの知り合いの人の計らいで、映画館を貸し切りにしてもらえることになったから、セルティもなんの気兼ねもなく一緒に入れるんだ。セルティもすごく喜んでくれていたからね。と言う訳で、セルティを待たせるなんて僕には耐え難い苦痛でしかないから、悪いんだけど先に帰らせてもらうね」
「うん、新羅うるさいからさっさと帰っていいよ」
 新羅の長い台詞が終わりを告げた瞬間、臨也はつっけんどんに返事をしてやった。今新羅に構っている暇はない、声と態度にそう匂わながら。新羅はそんな臨也に思わず苦笑してしまった。
「じゃあ、僕は先に帰らせてもらうね」
「え、あ、おい、新羅……」
 呆然と臨也と新羅のやり取りを見ていた静雄はようやく思考を取り戻したが遅かった。本当に新羅が帰ってしまう事実にびっくりしている内に当の本人は鼻歌混じりに教室を出て行ってしまった。言葉と共に躊躇いがちに新羅に伸ばした手が空しく宙を切る。
 残された静雄は内心焦っていた。臨也とふたりきりにされたら色々とまずいのだ。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ