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□一緒に帰ろう
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 不意に鳥の鳴き声が聞こえた。静雄は思考を中断さると、歩みを止めて空を見上げた。どこまでも澄み切った青空の下、そよ風に押され、北の方角へと流されていく大きな雲に向かって手をかざしながらじっと目を凝らせば、鳴き声の主は簡単に見つかった。
 ――ヒバリだ。
 囀りながらまるで青空と雲を目指すように飛翔を続けている。あんなにも広い世界を自由に羽ばたけるなんて、きっと気持ちいいんだろうな――静雄は、ただ純粋にヒバリに対して憧れを抱いた。
 遠方の祖父母の家に泊まりに行くのは決まって夏休みを利用することが多かったからその姿を目にする機会はなかったし、池袋の薄汚れた空にヒバリがいるはずもないから意識したこともなかった。けれども、どうして春になるとヒバリが囀りながら上空を目指すのか、その理由を静雄は知っていた。繁殖期に伴い、縄張りを主張しているのだ。
 普通はテレビの動物特集を見て偶然得たりする知識なのだろう。しかし、それも違っていた。
 そう、静雄にヒバリの生態について説明したのは、艶やかな黒髪、赤い瞳、作り物めいた秀麗な顔立ちをした――そこまで考えて、静雄ははっとなった。本当に無意識だった。脳裏に思い描いてしまった人物を否定したくて、静雄は思い切り首を振った。
 けれども、一度思い描いてしまったら簡単に消えてくれるはずはなかった。
(やめろ、考えるな!)
 とうとう耐え切れなくなり、静雄は心の中で自分に向かって必死になって叫んだ。穏やかだった静雄の表情が一変して苦痛に歪む。
 せっかく考えないようにしていたのに。せっかく忘れようとしていたのに。
 もう二度とあいつには――臨也には会わないと決めたのに。
 これじゃあ、また振り出しに戻ってしまう。苦痛に耐えるように静雄はぎゅっと目をつぶった。けれども、視界を閉ざしたことでより鮮明に臨也の面影が思い出されてしまった。そして、それと同時に静雄の脳裏に臨也と出会ってから別れるまでの10年間の記憶がまざまざと蘇った。
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