††破戒執行††
□畏怖スルカルマ
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―――人を殺す気なら、自分も殺される覚悟をしろ。
イフスルカルマ
今日、麒羅鳳凰学園では一つの行事が行われていた。
入学式、新学期の季節である。
新入生が初々しい姿で桜の門をくぐるという風景はなく、真夏のような暑い日差しを避けながら、或いは凍てつくような寒さの中を歩くのが常識となっていた。
ただ、長い学園長の話、新入生紹介、あいさつ……式の内容は何年経っても変わることはなかった。
「………あー……まだ終わらねぇのかよ」
パイプ椅子に深く沈むように座っていた遊雅<ユガ>が、退屈そうに呟いた。
その隣で、邦臣<クニオミ>が窘めるように言う。
「もう少し我慢しなよ」
「んなこと言っても、ずっと座りっぱなしで、つまんねーよ。卒業式はウマくサボれたのに……っくしょー、あん時、“目無し”に見つかんなかったら……」
「“目無し”?」
「あいつだ、あいつ」
遊雅が顎をしゃくって示す先には、教員席があった。
今年、教師は去る者も来る者もいないようで、変わらぬメンバーが並んで座っている。
その中、目を閉じたまま舞台に顔を向けている無精ひげの男を、遊雅はさしていた。
「……柩<ヒツキ>先生のこと?なんて呼び方するんだよ」
邦臣は呆れたように言った。
「柩先生だって、好きで目が見えないんじゃないんだから。……いや、“見えなくなった”って、話だけど」
「ふーん?本人の前で言ったら、笑ってたけどな」
「君って………」
邦臣が深い溜め息をつくと同時に、進行の声が響いた。
『在校生、歓迎の言葉』
まだあんのかよ、と、背もたれに寄りかかった遊雅。
静まり返った体育館内に、マイクの音だけが響き渡る。
『在校生代表、導神真澱<ミチガミ マオリ>君』
「………はい」
(……ん?)
聞き慣れた名前が聞こえ、遊雅は思わず返事をした方に目を向けた。
背筋をピンと伸ばし、制服をきっちり着こなしている少年。
眼鏡をかけた優等生のような雰囲気は、典型的な生徒会長に見えた。
しかし、ある部分が引っかかり、遊雅は邦臣にボソッと尋ねた。
「……今、導神っつったか?まさか、ウチのアホ総帥の身内じゃねーよな」
遊雅の脳裏に、ヘラヘラと笑っている先輩の顔が浮かぶ。
が、邦臣の返事が思いもよらず早かったので、すぐにその顔は泡のように消えてしまったのだが。
「うん、身内だよ」
「は」
思わず、大声で叫びそうだった遊雅の口を、まるで、予想していたように、邦臣が素早く手で塞いだ。
「静かに」
「いや……だって、あのアホの身内が生徒会長って……」
「アホ、アホ言うなよ」
邦臣は横目で見返しながら、ため息をついた。
そうしていると、生徒会長――真澱は壇上に上がり、全校生徒の前に向いた。
真正面から顔を見ると、確かに総帥――導神琉唯<ルイ>に似ている。
(……ん?生徒会長って、3年だよな?総帥も3年ってことは………)
「双子か?」
「そうだよ。なんか、意外だよな。確かに似てるけど、雰囲気とか正反対に見えるし」
至極真面目な顔で、壇上の生徒会長は祝辞を読み上げる。
時折、新入生の顔を見渡す為に顔を上げていたが、ふとその目が在校生の席に向いた。
ほんの一瞬だけだったので、恐らく誰も気づかなかっただろう。
その視線の先に、薄ら笑みを浮かべている、彼と同じ顔があったのを。