小唄
□凌晨
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遠くで鳥の声がした。
本当は近くなのかもしれないけれど、姿を見つける迄には至らない。
辺りは未だ暗い。
前後も分らぬ闇という程でも無いけれど、腰に下げた玉はその彩ほ映さない。
唯、隣に居るひとの手を見ていた。
少し筋が立っていて、白くて大きい。
ぼんやりとした空気の中で、ひっついた掌は確かに温かかった。
「大丈夫ですか?」
「ええ」
繋ぐ手に少し力を入れて、笑って見せる。
同じ様に笑って返してくれる。
熱を抱いた身体は重く、歩む速度は何時もの半分程。
心の臓だかげやたらと元気なようで、巡る血の熱さは彼にも伝わっているだろうか。
声には出さない。いや、出せない。
かさかさに乾いた喉では、この滔滔とした安穏に水を差してしまう。
気が遠くなるまで何度も、何度も彼の名を呼んだ。
孔の様は望月の真下で。
彼も何度も私を呼んで呉れたのだ。
低く穏やかな、私の大好きな声で。
背に回された腕の痕が、名残が
真綿の様に緩く強く、あまく、脳髄を痺れさせる。
嗚呼、後もう少しだけでいいのに ―
邸への分かれ路
真ん中の池まで来てしまった。