長編
□黒ぶち眼鏡は俺好み(完結)
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超好み。
初めて山和(やまわ)さんを見た時の感想はそれに尽きる。
黒髪のサラサラストレートショートヘアに、黒ぶち眼鏡。
気が強そうな目が、俺に愛想笑いを浮かべた瞬間に、すっかり虜になった。
その後、俺よりも6個も年上だって聞いて、その童顔っぷりが更に好み。とても28歳には見えない。
「しかも、超仕事できてカッコイイしボウリングも上手いし、完璧」
「ああそうかよ」
適当に相槌を打つ田中さんに構わず、俺は続ける。
「それなのに、山和さんすぐ怒るじゃないですか。俺ってかわいそう」
「こんな話聞かされる俺の方が、かなり可哀想だよ」
読みかけの雑誌を放り投げて、田中さんは俺をまじまじと見つめた。
まあ、田中さんも悪い顔じゃないけど、山和さんに比べたら、平凡中の平凡だな。
思わず口の端に浮かべた俺の笑みの意味に気付いたのか、田中さんは不愉快そうに眉をしかめる。
「おい、俺に失礼な事考えたな?」
「まさか。田中さんは尊敬する、リーダーですよ」
「・・・まあいいや。山和さんは誰にでも厳しいんだから、仕方ないだろう?いちいち俺に愚痴るのやめろよな」
そう。俺の山和さんは、皆に厳しい。
初めて会った面接の時は、優しそうだったのに、いざバイトに入ってみると、初日から怒鳴られた。綺麗な顔してるくせに、結構きつい怒鳴り方で。
それは俺だけじゃなく、バイト仲間は全員、怒られた事がある。
俺等みたいなペーペーのバイトでも怒られるんだから、バイトを実質取りまとめている「リーダー」の田中さんなんて、もっと怒られているはずだ。
山和さんはその田中さんの上に立つ、フロア担当のマネージャーだから、俺たちの上司って事になる。
バイトは昼夜シフト合わせても15人しかいないけど、色々と大変らしい。