短・中編
□手の平
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どちらかと言えば、国語は苦手。
だからと言っても、まさか。
「今回のトップは、千秋だ」
教室が僅かにざわめいた。ちらちらと注がれる視線の意味はわかっている。
けれど、そんな視線もすぐに本日の主役へと移っていった。
「マジで?やった!」
跳びはねそうな勢いで、千秋は教壇に駆け寄り、先生が淡々とテストを差し出す。
千秋はそれが不満なのか、テストではなく先生の腕を掴んだ。
「ね、ご褒美ください」
「アホか」
額を叩かれて、あっさり撃退させられている。
「ほら、次。 相田、取りに来い」
まったく相手にされないからか、大人しく引き下がった千秋は、そのまま俺の所にきた。
それは嬉しそうな顔で。
「ちょっと、マジすごくねえ?95点なんて、初めてとったし」
ひらひらと揺らしながら渡されたテストの右上には、確かに95の数字。
あの千秋が。
いつも期末前には、俺のうちで愚痴ばかり言いながら、ノートを写すだけの勉強しかしない千秋が。
まさか、俺より、いい点とるなんて。
「アンビリーバボー!」
叫んだのは俺じゃなかった。
後ろから身を伸ばして千秋のテストを取り上げながら、直哉が口にしたのだ。
「本当に95だ。信じられない。千秋のくせに」
「俺って、やれば出来る子なんだよ」
「とか言って、これだけのくせに」
直哉は何故か不機嫌そうに千秋のテストをはたいた。
そのうち、俺も呼ばれ、返ってきたテストは94点だった。
今回は少し難しかった気がするが、千秋の点を見ると言い訳にはならない。