短・中編

□指先
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何もかもが、自分と違うひと。

例えば、整った童顔に似合わず口が悪いところ。

一見、華奢に見えるかと思えば、意外なほどにパワフルだったり。

女子なんかは、俳優の誰だかに似ていると騒いでいるけれど、本人は全く気にしていなかったり。

惹かれる要素はたくさんあった。

そして問題は山積み。

俺は生徒で、あの人は教師だとか。

いや、その前に、あの人が男だって事。


     ☆

『舐めた口は一億年はえーんだよ』

キレイな顔からは想像もつかないくらいに乱暴な言葉がでた。

それまで絡んでいた先輩なんか、あっさりおとなしくなって、今じゃ

「内海先生〜」

気味悪い位に纏わり付いてるし。

確かに、ちょっと見惚れるくらいにかっこよかったのは事実。

元々は先輩のひがみ根性からはじまった事らしいけど、俺には関係ないと気にも止めていなかった。

その日はサッカー部の新入部員紹介の日で、今年から副顧問になった内海先生も改めて自己紹介していたのまでは覚えている。

俺は自分の挨拶が終われば暇だから、どうやってサボるか考えていたんだけど。

そんな時に騒ぎになった。

後で聞いた話だと、三年の先輩が、内海先生に絡んだらしい。

なんでも、その先輩の彼女が内海先生を好きになったとかなんとか。

完全に逆恨みなんだけど、とにかく気に入らなかった先輩が、先生に一対一勝負を挑んで。

先輩が先生を抜いて、ゴールできたら勝ち。

『俺が勝ったら、サッカー部来ないで下さいよ』

かなりマジな先輩に、先生は困り顔だったけど。

『じゃあ、俺が勝ったらおとなしくしろよ』

唇の端だけをあげた微かな笑いは、見たことがない表情だった。

そして先生はあっさり先輩を止めた。

悔しがる先輩に、追い打ちの言葉を投げつけて。


その時は、すげーと思ったくらいだった。

でも、それから気づけば先生の姿を追ってしまう。

授業中なんて、まともに勉強してしまって、やたらとその教科だけ点数がいい。

その授業中に、誰だったか女子が興味半分に聞いたのだ。

「先生、好みのタイプってどんな人?」

少しは悩むかと思った先生は、全く躊躇なく答えたのだ。

「惹かれるのは、挑む姿だな」

容姿でなく、性格でなく、そんな答えをする人を、俺は初めて見た。

かっこいい。

この人、目茶苦茶カッコイイんじゃねえの?

それからは、かっこよさを真似てやろうと、ずっと見つめていた。

それが、ただの憧れなんかじゃない事に気付いたのは、割とすぐ。





「あん時の先生かっこよかったんだよね」

「ああそうかよ、ありがとさん」

つれない返事で、先生は机上の整頓をしている。

さっきまで騒がしかった部室には、もう俺と先生だけで。

高校サッカー部の部室が綺麗なわけがないのだから、それが気に食わない内海先生は最後まで残って片付けをする。

それは俺にとっては願ってもないチャンスな訳で。

何だかんだ言いながら、内海先生と片付けをするのも、もはや日課だった。
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