長編

□だから好きと言わない(完結)
1ページ/70ページ


 ─ 1

 大概にして、俺の親父は勝手だ。

 いや、無敵と言ってもいい。

 細い体に白髪頭で、いつもニコニコ笑って無害な顔してやがるくせに、性質が悪い事この上ない。

 基本的に、人の話を聞きやがらねえのがその原因だ。

 だもんで。

「で、康哉(こうや)はどこの大学にいくんだ?」

 この質問も、四度目だ。

「いかねえって言ってんだろ!」

勿論、この返事も四度目。

 母親は早々に逃げてしまって、隣の部屋でドラマに夢中だから、誰も俺の味方はいない。

 ひでえもんだ。

 だいたい、この俺に大学行けとか、アホすぎる。

 勉強なんて高校入って一年もしないうちからしてないっての。

 留年はダサいから、赤点だけとらないように上手くやってきたんだから、それだけで満足してもらいたいもんだ。

 親父だって俺の素行くらい知ってるはずだ。

 いや、そんなに悪い事ばっかしてる訳じゃない。テレビドラマみたいに洒落にならない事はしないし、せいぜい喧嘩にタバコくらいの可愛いもんだ。

 それでも、比較的おとなしいうちの学校では目立つ方らしく、恥ずかしい事に「不良」の一人と認識されてるらしい。

 そんなだから、母親なんて何度学校に呼び出されたかわからない。

 だから、親父の口から

「大学はどこへ行く?」

発言がでた時は、驚きというより半笑いで弟と一緒に部屋を出て行った。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ