短・中編
□初恋の色
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そういえば。島崎にとって、この初恋は何色なんだろうか。
昨日から頭をめぐる質問を端的にぶつけてみれば、なにか不気味なものでも見るような目が大きく瞬きをする。
「え、お前、熱で頭やられたか?」
「あほ。姉貴のCDの歌詞でそういうのがあったんだよ」
「色、かあ。そうだな、ピンクじゃね?」
「なんで」
「山田優子はピンクがすきなんだよ」
ああ、そういう事か。
そう単純なものなんだな。
気のない相槌を打つと、同じ質問を返された。
「お前、中学の時彼女いただろ。何色だったわけ?」
色、か。
もし、あれを初恋というのなら。
「無色」
加えれば、無味無臭無色。
確かに、中学の時、彼女はいた。
近くの席になった女の子で、仲はいい方だった。付き合ってというから、嫌いじゃないし、付き合った。
でも、それだけだ。
一緒に遊びに行っても、何をしても、それといって日常になんの変化もなく。
別れたあとも、何の変化も感慨もなかった。
そんなもんだと思っていたんだから、例えば初恋に特別な色があるなんて思いもしなかった。
だから、あの歌の歌詞がやけに頭についたんだろう。
高校になって新しい出会いがあっても、特に日常はかわらない。
もともと淡白なのか、女の子にそこまで執着もないし、別にどうでもいい。
そんな俺を知っているからか、島崎はいつでもこんな会話を同じ言葉でしめくくる。
「お前、背も高いし、男っぽい顔してんのに、もったいないよな」
それはどうも。軽く頭を下げて、今日もこの会話はこれで終りだ。
何せ、このあと、とんでも無い事を言われたもんだから、本当にそれどころでもなくなった。
「あ、そういえば、お前と俺、体育祭で応援にでる事になったから」