短・中編
□不機嫌なプリンセス
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昨日は、普通だった。
いつも通りに駅前公園で別れて、その時は笑ってたはずだった。本人は女顔を気にしているらしいから口にはしないけど、照れくさそうに小さく笑うその表情は、はっとするくらいに可愛い。
だから、今のこの無表情がわからない。
待ち合わせて一緒に登校するのは久しぶりだけど、朝が弱い様子を見たこともない。
けれど、今朝は口数が少ない。
愛想がいいほうではないのは分かっているけど、それにしても、だ。
さすがに、わかる。
これは。
「姫ちゃん、なんかあった?」
「べつに」
完全に、機嫌がわるい。俺、なんかしたかな。思うけれど、昨日の別れから、今朝まではメールもしていない。
何も心あたりがないから、俺には肩をすくめる事くらいしかできそうもない。
「怒ってる?」
「・・・別に」
あ、やっぱり怒ってる。姫ちゃんは素直だから、感情が表にでる。言葉にだって出る。
その率直さをかっこいいと思うし、好きだと思う。それなのに、今はそれを必死で隠しているようだった。
これは俺が何かしでかして、姫ちゃんはそれを言うのを我慢しているという事だろうか。
俺が原因なら、我慢なんてさせたくない。
表情とは裏腹に力強く進む歩調に合わせて、足早に正面に回りこむと、今朝はじめてまともに目があった。
一瞬、怯んだように揺れた目が、次の瞬間には、もう、腕時計に移った。
「姫ちゃん」
「なんですか。早く行かないと、遅刻しますよ?」
「別にいいよ。それより、何か、あった?」