頂き物
□たからもの
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「君と未来の話をしよう」二次ＳＳ 〜Crazy for you〜
「圭、さん……」
指と一緒に、佐倉井の声が俺の身体を這い回る。何でもこなす器用な長い指と、セックスのときだけ低くなる声に追い詰められれば、俺の逃げ場はどこにもなくなってしまう。
やっぱりこいつは何でも上手い。セックスだってすごく上手い。ただ、見ていただけの時と違い、俺は身をもって、佐倉井の指や舌や声や――そして、熱くて猛った彼自身に翻弄される自分自身を思い知っている。
あいつの腕の中で、身体がばらばらになって、意識もとろけて、どうしようもなくなっていく自分を、俺は自覚することすら難しくなるのだ。
「あ、もう、やっ……あ、あ」
「大丈夫……力、抜いて、怖くないから」
俺は佐倉井に脇を支えられ、今まさに空を仰ぐように勃ちあがった彼のそれを呑み込もうとしている。俺の身体のもっとも深いところを教えてくれたのは佐倉井だけれど、こんなふうに繋がれば、俺の身体は底なし沼みたいになってしまうんじゃないかと思う。
もっと深く佐倉井を受け入れたくて、身体が勝手に開いていく。
怖い、ほんとに怖い。
一人の人間をこんなに欲しがってしまうなんて、俺はどこか壊れてるんじゃないか――。
佐倉井が俺のものじゃなかったあの頃、俺は佐倉井が他の男を抱くところを見て、本当は彼に抱かれたい自分をごまかしていた。そんな屈折したやり方を選んでしまうほどに、俺は佐倉井が欲しくてたまんなかった。自分だけが彼に恋焦がれていることが悔しくて、自分があいつ好みの可愛いタイプじゃないことがやりきれなくて。あの頃から俺は、佐倉井に対して壊れていた。あいつが好きすぎて、あいつが欲しすぎて、きっとおかしくなっていた――。
「そう……上手。そのまま、腰、おとして――」
上手いのはおまえのリードだろう。文句を言ってやろうと思ったのに、彼が俺のなかに入り込んだ瞬間に、そんなくだらない強がりは蒸発してしまった。それほどに、送り込まれる熱の温度が高い。
「ん……あ、さ、くらい……さくら、い……」
俺のいいところを擦りあげながら、佐倉井は俺を上向きに突き刺す。俺はただ、佐倉井を欲しがるだけのカタマリになって、あいつのかたちに身体を作り変えていく――。
「大丈夫？ 痛くない？」
「いた……くない」
それは本当だ。ただ、圧迫感がすごいだけ。初めての体位だから尚更だ。
「ん……あっ！」
感覚を逃すためにあげた声は、すべてその唇に吸い取られる。そんなに吸うなよ、息ができねえよ。でも、その文句もやっぱり言えなかった。
「動いていい？」
遠慮がちな声が、じれったそうに腰を揺らめかせる。俺は返事もできなくて、酸素を欲しがるサカナみたいに、ただ口をばくばくさせていた。
「可愛い」
「かわいく……ないっ！」
ロクに息つぎもできなくて、口をばくばくさせてる俺のどこが可愛いんだ。俺は理性と言葉をかき集めて、佐倉井に抗議する。
「いいから……動けっ！」
俺の許しを得て、佐倉井は俺をめちゃめちゃに揺さぶって、下からガンガン突き上げてきた。揺すられる振動で、向き合った佐倉井の顔が上下に揺れて、だんだんそのビジョンを結べなくなる。
俺は、佐倉井の顔がブレるのが哀しくて、顔がはっきり見えないことが不安で、底なしに佐倉井を呑み込む自分の身体が怖くて、でも、気持ちよくて、よくて、よくて――頭の中で、何かが弾ける音を聞いた。
「こうた……こうた！」
「圭さん……圭、さんっ」
「こうた、すき、すき、すき……っ」
「俺も、俺もすき、圭さん、俺もすき。もっと言って、ねえ、もっと言って……！」
「あ、すき……すき、イっ、あ、す、き、あ、イク……す、き……すき――」
「…………」
最後は、何て言ったか自分でもわからなかった。
好き、と、イク、がまざって、ただワケのわからないことを叫んでいたような気もする。
俺は意識を手放し、佐倉井の腕の中にくずおれた。
身体の中から、何かがずるりと引き抜かれる。俺はそれが寂しくて、でも、深い意識の底へ堕ちていく感覚には抗えなくて、自分自身に白旗を上げる。心地よい疲労と、快感の残像の向こうに待っているのは、温かで柔らかな眠りの世界だ。大好きな男の腕の中というプレミアつきの――。
――感じないと、好きだって言ってくれないんだから……。
え？ 今、何て言った？
まどろみの中で、俺は佐倉井に聞き返す。
――可愛いって言ったの。
佐倉井の声が耳の奥でとけていったけれど、俺は眠くて、もうどうすることもできなかった。
By sumikawasumika