短・中編

□指先
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     ☆☆    

初めて乗せてもらう先生の車は、らしく整頓されていた。

助手席に座りながらさりげなくチェックするのは音楽の趣味。

並んだCDは洋楽 ばかりで、なんかそれもカッコイイとか思う俺はかなり終わってる。

友達に言わすと、ちょっとした病気らしい。

そんな中、やっと俺にもわかるCDを見つけた。

流行りのバンドのベストで、カラオケでもよく歌うから、嬉しくなった。

「先生、こんなのも聞くんですか」

先生はチラと横目で俺が手にしたCDを見ると、

「それは俺のじゃねーから」

どこか、嬉しそうに笑った。

なんか。
嫌な気分。

先生のテリトリーには、当たり前だけど俺が知らない奴がいっぱいいて。

例えばそれは、彼女だったりするのだ、きっと。

何度きいてもごまかされてきたけれど、今ので確信した。

やっぱり彼女いるんだ。

せっかくの二人キリに舞い上がっていた気持ちが、途端にしぼんでいく。

どんな女なんだろう。

目茶苦茶美人じゃなきゃ、釣り合わないと思うんだけど。

性格もよくて、強くなきゃ先生の口の悪さについていけないだろうし。

一人悶々と妄想にふける俺に構わず、先生は運転をはじめる。

真剣な横顔はやっぱりキレイで、俺が先生を好きなんて微塵も思ってないのだろう。

すき、なんて言葉は沢山使ってきたのに、今はとても口にだせる気がしない。

――なに純情ぶってんだか。
言われたのも尤もだ。

――どうせフラれるんだから、さっさと言えば?
キツイ事を言ってくれた友人の顔を思い出すと、知らず苦笑がもれた。

だって、怖えもん。

例えば、好きだって言ってフラれたら、こんな風に二人キリなんかなれないのだろうし。

先生の運転する姿なんて、一生見れないだろうし。

そっと見つめた視線の先、先生はハンドルをきっているところだった。

案外ながい指なのは知ってる。

爪の形が整っているせいか、べつに細いわけでもないのに綺麗な手だと思う。

その指先が、するするとハンドルを滑るのは、やけに色っぽく見えた。
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