突発文
□GOLD
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オリンピックということで殴り書きした突発文です(笑)
青空をくるくると舞う君に吸い寄せられ、目が離せなくなってしまった。
4年に一度のオリンピック。
世界中が熱狂する冬の祭典。
その主役たちが集う選手村。
一般人は入れない、選ばれた選手たちのみが生活する場所。
ここからメダルをかけた戦いに赴き、順位を携え戻ってくる。
オリンピック選手が一同に暮らす場所なのだから、当然いつも賑やかである。
その選手村の賑わう食堂で、ひときわ人が集っている場所があった。
「なんだあれ、凄いな」
本日の夕食、オリンピック主催国の郷土料理を口に運びながら、カガリが見つめる視線の先には、大勢の女性選手に囲まれる数人の男性がいた。
「あれ、ハーフパイプのプラント代表メンバーじゃん。そういえば、今日現地入りするって言ってた」
人混みから僅かに見える人影を一瞥して、シンがつまらなそうに言った。
カガリと、その隣に座っているシンは、ともにハーフパイプのオーブ代表だ。
ともにメダルを期待されている実力者だが、男子のほうには強力なライバルが数人立ちはだかっている。
そのもっともたるものがプラントの面々だった。
「まあ、あんなスター扱いされて、肝心の試合で足元掬われないといいけどね」
「こら、シン」
シンの軽口に年長者のカガリが窘める。
異性同士とはいえ、国内の試合ではともに優勝を何度も飾り、オーブ代表として国際試合を戦った二人の間には確固たる信頼関係があった。
南国のオーブではスノーボードの選手の層が薄く、ハーフパイプの代表枠は男女ともに一つずつしかない為、二人はオリンピックでも行動を共にしており、こうして今も二人で夕食を取っているのだ。
「それにしてもオリンピックでも凄い人気だな」
ふて腐れたようにと横をむいたシンを無視して、カガリは人だかりに視線を戻した。
プラントはスノーボード競技の強豪国であり、なかでも最も注目されているのがハーフパイプだった。
今年のワールドカップでも一位と二位はプラントの選手が占めている。(三位はシンだ)
特に、優勝したアスラン・ザラはここ数年表彰台の真ん中を逃したことは無く、種目を超えて今大会もっとも注目されている選手の一人だった。
文句なしの金メダル候補。
彼の演技を世界中の人が楽しみにしている。
彼の鮮やかで計算された美しい演技はさることながら、俳優にも引けを取らない際立った容姿も彼の人気に拍車をかけていた。
加えて、父親はプラント評議会の議長で、正真正銘のサラブレットなのである。
彼が出場する試合は今までハーフパイプに興味の無かった女性までもが押しかけごった返すほどだ。
オーブの有名女性誌もオリンピック直前特集とやらで彼を紙面のトップに載せていた。(自国選手のシンは次ページで、しかもアスランの半分しか紙面が使われておらず、シンは相当気分を害していた)
しかし、選手村でもここまで人気だとは。
アスランに写真をお願いしている女性だって、オリンピックの選手のはずだ。
皆が選ばれたオリンピック選手という環境のなかでもスター扱いとは。
もっとも同じ選手といっても、メダルを期待されている選手のほうが少なく、知名度には大きな幅があるのだが。
「カガリ、食い終わったなら行こうぜ。明日予選なんだからコーチと早めにミーティングしとかないと」
シンに促され、カガリはトレイを手に持ち立ち上がった。
明日ついに、男子より一足先に女子ハーフパイプが始まるのだ。
大会前の現地の予想では、カガリは金メダルだったが油断はできない。
今日の最終練習の録画を見て、コーチと最後のミーティングだ。
トレイを下げ、食堂を出ようとしたカガリだったが。
その背中に声がかかった。
「アスハさん!」
振り向ければ、息を切らしたアスラン・ザラがたっていた。
肩を上下に揺らし、急いで走ってきましたというような。
ちらちらと食堂を行き交う人たちがこちらに視線を向けている。
先ほど彼が座っていたテーブルの周りの人垣達も唖然とした表情でこちらを見ている。
アスランのことはハーフパイプの試合で何度も見かけたことはあるし、世界チャンピオンとして互いの存在は認識しているだろうが、話したことはない。
そのアスラン・ザラがどうして。
露骨に眉をひそめたシンには目もくれず、そもそも気にする余裕がないように、アスランは必死な表情でカガリを見つめていた。
「なんだ?」
不思議に思いながらカガリが尋ねると、アスランは意を決したように僅かに身を固くした。
「あのっ…明日の競技、頑張って下さい」
「は…」
「あとっ、今日、ちらりと練習風景が見えたんですけど、リップから飛ぶタイミングがいつものアスハさんより少し早くなっているみたいだから、明日はタイミングをもっと意識した方がいいと思います」
「はあ…」
「ザラさん、あなた急になんなんすか」
シンが一歩前に出たことで、アスランは初めてシンに目を向けた。
「アドバイス有難うございます。けど、そこらへんはオーブチームでしっかり確認しますから。あなたに心配して頂かなくて大丈夫です。行こ、カガリ」
そう言うや、シンはカガリの肩を掴みアスランに背を向けさせ、その場を去ろうとする。
何か言わなければと逡巡するカガリの背中に再び声が届いた。
「アっ、アスハさん、明日本番応援してますから、悔いのないように頑張って下さいっ……」
オリンピックで掴みたい色は、金
メダルと、君と
試合で一目ぼれして、その後何年も試合のたびにソワソワしていたアスラン。
今まで話しかけられなかったけれど、オリンピックの競技の前に、どうしても応援していると伝えたかったのでありました。
オリンピックのたびに選手村で始まる恋を妄想してたので、アスカガで(笑)