本編

□第九章
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あの後、俺が肩を痛めたことにより強制的にアニスとティアにより絶対安静にさせられながらも、無事に痛みは和らぎこうしてバチカル港に到着した。もう肩を回すことも容易いぐらいである。証明して見せたときは安堵の息を漏らしていた。余程心配していたと言うことになる、彼女達には本当に心配をかけてすまなかった。
それはさておき。
とにもかくにも俺達は無事にバチカル港へ入港した次第である。

「お初にお目にかかります。キムラスカ・ランバルディア王国軍、第一師団団長のゴールドバーグと申します。此度は、無事のご帰国、おめでとうございます」
「ごくろう」

そして、港に着いた俺達――と言うよりルークにだな――を出迎えた人物は只今自己紹介をしたゴールドバーグ将軍とその傍らにはセシル――名前は確かジョゼットで間違いないだろうか?――少将が控えていた。二人とも軍人であるため赤い軍服――当然男性と女性では作りが違う――を共に纏っている。

「アルマンダイン伯爵より鳩が届きました。マルクト帝国から和平の使者が同行しておられるとか」

代表してイオンが一歩前に出、一礼をした。

「ローレライ教団導師イオンです。マルクト帝国皇帝ピオニー九世陛下に請われ、親書をお持ちしました。国王インゴベルト六世陛下にお取り次をお願いできませんか?」
「無論です。皆様のことは、このセシル将軍が責任を持って城にお連れします」
「セシル少将です。よろしくお願いいたします」

セシル少将――キリッとした佇まいは何処となくジゼルに似ている。身長は彼女よりも低いが、女性の中では高い方だと思われる――はそう言うと軽く会釈した。彼女を見てガイの顔が少し強張る。それは俺だけでなくセシル少将も気付いたようだ。

「どうかしましたか?」

何気ない一言をかけられたガイは、はっ、と気付き頭を降った。

「い、いえ・・・お・・・私はガイといいます。ファブレ公爵家でお世話になっているルーク様の使用人です」

ピシッと姿勢を正したガイ。珍しく緊張した声音で自己紹介をする。いや、緊張と言うよりセシル少将に対して複雑な心境がありありと見え隠れしているように俺は感じた。
今現在ガイは身分と本名を隠し、ガイ・セシルと名乗っている。目の前にいるセシル少将と同じファミリーネーム。そう言えば、確かセシルはガイの母方の旧姓のはず。おかげで色々思い出した。なら二人は従姉弟になるわけだ。しかし、この光景を見るにセシル少将はガイのことに気付いていないようである。おそらく、生きていることを聞かされていないのだろう。一族郎党殺された事件だったからだと思える。
まあ、こんなところで身を明かせてしまえば後々、特にガイが面倒な羽目になってしまう。
それはガイも理解しているようで敢えて名前だけを皆に教えていた。勿論今もである。
不意に古い記憶がフラッシュバックしたように思い出してしまい、事情を知り得てしまった俺は只々後ろからガイを案じていた。
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