本編

□第十二章
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意気揚々とアクゼリュスに到着した俺達を待っていたものは、はるか予想を越え最早地獄としか言いようが無かった。
そこかしこの壁にもたれ掛かっている人ひとの怒声はもちろんのこと、そこから連鎖し悲鳴、生気の無い呪詛等々負の声が呻き声となり街を今か今かと覆い尽くさんとしていた。精も根も使い果たしてしまうのは仕方がなかったとは言え、想像以上瘴気による被害は甚大であった。
到着した早々に俺達は文字通り総動員して救助活動にあたることと相成ったわけだ。
先ずは、先遣隊と合流を――。

「アインさん!」
「待ち焦がれていました!」

お。来た来た。白いオラクルの制服に包まれたユミスと黒色の同じ形のそれを身に纏っているメルス、双子の姉妹が瘴気の靄の奥から此方に駆け寄――

「ぐはっ!!」

らず、アニスに負けず劣らずのタックル――もとい、強烈なハグをユミスから真っ正面に、それも、ものの見事に鳩尾付近で受けることになった・・・ぐぐ・・・こ、呼吸が・・・。

「こらユミス!真ん中は私だってさっきじゃんけんで決めたでしょ!其処を退いて!」
「そんなの私知らないも〜ん。早い者勝ち!それに姉を立てるのは妹としてメルスの義務!」
「私が妹だなんてこれっぽっちも自覚していないし、ユミスを姉だなんて思ったこと一度たりとも無いから!直ぐに離れて!」
「いーや!久しぶりにアインさんの温もりを感じられるんだもの!」
「だからそれを次は私が受けて!」
「私!」
「私!」

うぉぉぉ・・・し、しまる・・・こ、これ、以上、は・・・さ・・・流石に・・・くはっ・・・!

「お前達!」
「何リグレットぉ?」
「私達今取り込み中なの後にしてくれる?」

ジゼルか・・・いや、助かった・・・お陰で若干双子のダブルハグアタック(?)から逃れられ――。

「そこは――」
「「そこは?」」
「わ、私だけの一等席だ!!」

は?

「だから、お前達にはやれん!もう我慢できん!二人にアインから半径十メートルは近付くことを禁ずる!これ以上アインに抱き着くなぁ!」

お、おいおい。何を言い出すんだジゼルは?俺を置いてそう言った話しは無しにしてもらいたいのだが。
すると、俺からすれば良く分からん台詞を言われた双子らは一旦互いの半身と顔を突き合わせ――押し合い圧し合いをしていた時既にゼロ距離だったような気が――何を思ったか、同時ににんまりと、まるで悪戯を思い付いた子供のような笑みを浮かべた。どうやらこの双子は台詞の意味を知っているようだ。そしてまた同時――そこは流石双子ならではの息の合った一挙手一投足である。普段からこうしていれば良いものを、とつい思ってしまった次第である――にジゼルへと改めて顔を向けるや否や。

「「べぇー!」」
「んな!?」

双子のあかんべーが発動。
ジゼル自身、まさか¨それ¨をされるとは梅雨とも考えずにいたようで一瞬息を呑んでしまい固まる。
まあ、ジゼルに対するこの双子の反抗的な態度は今に始まった訳ではないのだが、未だにジゼルは学習していないらしい。いや、まあ、それもぶちあけてしまえばらしいと言えばらしいのだ。記憶の中のジゼルからは想像し難いが、もしかするとそういう傾向があったのではなかろうか?
それはともかく。
ジゼルは憤怒で顔を真っ赤にしている。付き合いは長い、この後起こりうるであろう事態は容易に想像できた・・・何故に双子相手にここまで取り乱してしまうのやら。これは双子なりの俺へのスキンシップであり、子供心ながらに求めているだけのことなのだが、少々度合いが強いかもしれん・・・と言うことはアニスもこれに当てはまるのである。結局はジゼルが乱心し譜銃を取り出し乱射させてしまうことになってしまうのだ。
常日頃ならそんな彼女を見ていたいのだが、如何せん時と場所による。流石に今の状況ではただ流されるのは勘弁である。
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