本編

□第十三章
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『鉱山都市アクゼリュス』

マルクト領に位置するその都市は、山をくり貫き崖の途中に街を作ったような、ある意味バチカルに似た構造を持つ街だ。普段なら街中採掘時の音や、賑わう人々の喧騒などが飛び交う中々に活気のある――それでも港町には及ばないが――ところなのだ。だが今現在、その鉱山を代表する屈強な男達や支えになる家族らの姿は、無い。さながら、ここはゴーストタウンと化していた。その住人を俺の命令で避難させたのだから、当然と言えば当然か。
いや、本当に――。

「――静かだな」

本来筋肉質の男達で賑わう街の中央で俺は誰にともなくそう呟く。そうさせた本人が言うのはおかしいが、紛れもなくそう感じるということは即ち、避難を完了しきった証拠でもある。そう、第一段階は完了してくれた。皆に感謝だ。体はずたぼろだが、達成感の方が染み渡っており、寝てはいないが休息ができたおかげもあり今や清々しい気分だ。
今この街にいるのは、俺を含め大体二十から三十ほど。その殆どが、ラルゴが師団長を務める、第一師団から借りた猛者達だ。あの後、予め待機させていたらしく直ぐに到着したのだ。その彼らが今ここにいない鉱山都市の住人役を引き受けてもらっている。勿論、衣装はここのものだ。ここにいる人員でこれからやって来るであろうヴァン及びルーク達ご一行から偽装するわけだ。今、街のあちこちで重患者よろしく擦り傷生傷――弱っているように見せるため少し前まで俺と手合いをしていた――を体のあちこちに作り苦悶――というより、震えていないか?何故だ?――の表情を浮かべその場にへたり込んでいた。これならば、瘴気に苦しんでいる街の住民として認識されることはほぼ間違いない筈だ。
と、そこで物思いに耽っている俺のところに声をかける人物がいた。

「副・・・先輩、大丈夫ですか?」

ルゥナだ。振り返らなくとも気配だけで彼女だと分かる。尤も、残っている第四師団員は俺とルゥナしかいないわけで、気配云々抜きにしても誰だか分かったりする。それはさておき。
俺は前方を見据えたまま返事をした。

「ああ。お前のお陰で後は、ヴァンとルーク達を待つだけだ。それがどうかしたのか?」

彼女は俺が不調で床に臥している間、縦横無尽に駆け回り、坑道の奥深くまで入り残っている住民がいないかを隈無く探し尽力を尽くしてくれた。本当に感謝してもしきれない。事が落ち着いたら何かしらの形で返さないとな。そして、今ここにいるのは回復役として俺のサポートとして付き従っている。何分自分の回復術だけでは今の体を支えれないからである。瘴気の無い場所に行くまでの辛抱だ。謂わば今のルゥナは俺の¨相棒¨と言ったところか?
だが、彼女は俺の返した言葉に無反応。振り向いて見てみると、表情が曇っていた。

「い、いえ・・・ただ、お体の方が心配で・・・」

なるほど、そちらか。

「本来ならもう二、三日安静にしていなければならないはずなんです。貴方の体質を考えれば――っ!」

それ以上口にさせたくなかったので人差し指を彼女の柔らかい唇に置き、閉ざした。彼女の言いたいことは分かるが、俺一人だけそうそう休んでばかりいられない。この体質については原因が分かってはいるが対処の仕様がないことはもうとっくの昔から知っている。だから、一生この体と付き合わなくてはならない。人によってだがアデバンテージにしては重い方なのかもしれない。俺にしてみれば、これくらいの痛みがある方が余程自覚していられるのだ。前世で自分がしたことの罪を、な。それは誰にも知られることなく、最後の最後まで、そして墓石にまで持っていく。
ここは、その辺りを気取られないようにするべく、柳眉を八の字にした涙目ルゥナにこれ以上気苦労をさせないためにも、普段通りに振る舞ってみせる。

「心配するな。いつも通りにしていれば何も問題ない」
「で、でも・・・」

彼女――ん?今声が上擦っていたような――と俺はジゼルほどでないにしろそれなりに付き合いが長い。だからか俺にこう言われてもまだ渋っていた。心配をかけっぱなしで上司として先輩として面目丸潰れだな。申し訳がない。

「・・・ぁ・・・」

俺は彼女の頭に、ぽん、と手を置き撫でるようにする。その際、顔がほんのりと赤く染まり、瞳が更に潤んだ。
この状態なら聞いてくれる、か?

「なあルゥナ。俺はお前に嘘をついたことがあったか?」

――嘘だ。
ただ、俺は自分の事に関してはこれはかあるが、仲間との約束事だけは決して嘘八百をしたことがない。直ぐ様有言実行し、言ったことを完遂してきた。これは師団員等からお墨付きをもらっているほどのものだったりする。当然今もこれから先も彼女達を見限らせないようにしていく。
その辺りを察してくれたようで、ルゥナは首を横に何度も何度も繰り返し振っていく。

「いいえ。一度だってありません」
「だろ」

そして、強くしっかりと頷いてくれた。伝わったようで何よりだ。
余談ではあるが、この後俺が¨よろしくな相棒¨とルゥナに言ったところ。彼女から何かの小爆発音が炸裂し、先程まで、きりっ、としていた顔が、忽ち真っ赤に染まるや思いっきり弛緩してしまったというのはまた別の話になるのであった。
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