本編

□第十四章
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う・・・肘鉄は・・・み、鳩お、尾、に・・・効果・・・て、覿面・・・肘、鉄は・・・ひ・・・じ・・・て・・・つ・・・は・・・。

「はっ・・・!」

覚醒し、反射的に上半身を起こす。薄暗いため視界が確保できなかったが、軈て目が慣れていきぼんやりと辺りのシルエットが浮き上がる。
直ぐに察せられたのは、ここはどこかの部屋で俺はそこに備え付けられているベットにいるということ。
ん?ベット、だと?
あぁ・・・そうか・・・俺はあの後から今まで気を失ってしまっていたのだったな。
くっ、不甲斐ない。そんな体たらく振りに嫌気がさす・・・いや、仕方がない。元々、あの場に程好い対策法など、土台無理な話だ。恐らく、未来永劫この体質改善は出来ないだろうな。フーブラス川の時のあの量でさえ昏倒してしまったからな。今回はよく耐えることができたことに喜ぼうじゃないか。その事に関してはアイツが一番の功労者だな、本当に。
それにしても、やけに見覚えのある部屋だと思えば、ここはティアが間借りしている一室、しかもヴァンが昔――とある期間に、ヴァンの要望でティアと共に暮らしていた時期があり、その時使っていた部屋だ。まだ残っていたんだな――俺用に拵えた部屋だった。と言うことは、今俺、いや俺達はユリアシティにいるのか・・・?
そう言えば、倒れてからどれくらいの日にちが過ぎてしまったのだろう。年がら年中陽の当たることの無い地下都市では時間帯の把握が困難だ。今が何時かすら分かりようもない。
あれ以来世界情勢はどのように変化して行ったか、前世の記憶の通りになっているのだろうか?それとも――

「――ぃつつぅ・・・」

しかし何故か、鳩尾辺りに抉り込んだような衝撃を受けたような記憶がまざまざと残っている・・・妙にズキリと来るな。身に覚えが無いのだが、はて?

「くぅ・・・すぅ・・・」

と、すぐ脇からそんな可愛らしい寝息が聞こえた。見ればそこには、ベットに顔を突っ伏している我が愛しの妹がいた。その近くの椅子には水の入った底の浅い盆だけがあった。と、俺の膝上の辺り――俺に被せていた布のため実見出来ずに予測で――には、やはりタオル――ん?タオル?そこにあったものは、額にかけるにはサイズが些か違う代物の、はず。普通ならおしぼり程度の布切れが丁度良いのだが?――が一枚あることに気付く。
つい今しがたまで俺の看病をしていたのだろうか・・・?

「・・・お兄、ちゃん・・・」

相当心配していたのだろうか、俺の手を両手できつく握り締めながらアニスは眠っていた。
トクナガから振り落とされないよう鍛え上げられた握力は今や教団内随一とされている。本気のアニスを振りほどくことは俺でさえ難しい。まあ、そのような肩書きがあろうとなかろうと、妹がこうして必死に俺の手を握っているのだ、無下にする必要は無い。
そんな彼女の頭を撫でようと思ったが何故か微動だに片腕が動かない。原因を探ろうと反対側に視線を送ると何と、もう一人アニスと同じ体勢に突っ伏している人陰があるではないか。

「すぅ・・・アイン、兄さん・・・」

ティアだ。そう彼女こそ俺の腕を肌に離さずしっかり掴んでいた張本人。
しかし、何故にティアがここに?と思ったが答えに辿り着くのにそう時間はかからなかった。何故ならその横の椅子には盆が一つ鎮座しており、中には水とそこにつけたままのタオルらしき布がたゆたっていたのだ。つまりは、彼女も俺の看病――ティアにはこれで二度看てもらっていたわけだ。逆は何度かあれど――をし、いつの間にか寝落ちしてしまった、と言ったところなのだろう。
その健気なところ、何とも実に可愛いではないか、不意に頭を撫でようと思いはしたものの、ガッチリと拘束されていることに今更のように思い出す。
むむむ・・・こ、これでは身動きが――この時俺の思考には無理矢理引き剥がすと言う選択肢は存在し得なかった――とれん・・・どうしたら良いだろうか・・・?
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