本編

□第五章
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「あっ、アイン!」

媚び入っていた視線が俺の姿を見つけるや否や、ぱあっと、歓喜の表情をさせながら、胸の中に飛び込み俺に抱き着いてくる。
そこには、表裏の表情を全く持ち合わせていない。心からの感情に溢れた可愛い我が妹がいた。
抱き留めた俺はいつものように頭を撫でる。

「はわぁ〜〜〜・・・」

アニスは気持ち良さそうに顔を綻ばせ、俺の体に頬擦りしながらその身を委ねていた。

「お前が無事でよかった。心配したんだぞアニス」
「えへへ〜〜」
「大変でしたね。アニス」

ジェイドの横に並んでいたイオンが、微笑みながら労いの言葉をアニスにかけると、ジェイドも先程の出来事は無かったかのように話しを進めるかのように、うんうんと頷いていた。

「ええ。もう少しで心配するところでしたよ」

その台詞に、アニスは抱き着いたまま振り向き、思いっ切り頬を膨らませる。

「ぶー。最初っから心配してくださいよぉ」
「してましたよ?親書が無くては話になりませんから」
「大佐って、意地悪ですぅ」

暫くジェイドを睨みつけるアニス。しかし、口ぶりから見るにさほど怒っていないようだ。

「船窓から落ちたんですって?大丈夫なの?」

ティアがそう聞くと、アニスが頷いた。

「もちろん!そう簡単にくたばるアニスちゃんじゃないからね!」

「そうですよね。アニスは落ちながら、『ヤロー、てめー、ぶっ殺す!』って悲鳴を上げてましたからね」
うんうんと頷くイオン。いや、それは悲鳴とは到底言えない内容だな。まあ、それもアニスらしい言動の一つと言えるから可愛いものだ。

「イオン様は少し黙っててくださーい!ちゃんと親書は守ったんですから!」
「よしよし、偉いぞアニス」
「〜〜〜〜っ!」

俺は褒美とばかりにアニスの頭を撫でる。
きちんと任務を熟しているんだそこはしっかりと褒めないとな。
アニスは、何とも言えない声を張り上げた後、更に強く回した腕に力をいれ、赤くした顔を隠すように埋め、頬を擦りつける。
喜んでいる・・・と思っていいか。
ん・・・?
すると、そこで視線を感じた俺は、ふと顔を上げるとティアと目がぶつかる。謎の視線の正体はコイツか?いや、微妙に違う。しかしその気配は既に無くなっていた。気のせいか・・・?ただ、それ以上よりも今はティアの表情が気になる。視線は相変わらず俺に向いたままだ。顔が不機嫌そうに見えたのだ。
あれは、怒っている・・・のか?何でた?

「ティア。どうした?」
「別に・・・」

顔をぷいと逸らし、冷たく言い放つティア。彼女はそのまま少し離れた場所で集まっているルーク達──いつの間にあんな場所にいたんだ。まるで気付かなかった──の元へ行ってしまった。
イマイチその行動を理解できなかった俺はただ、頭上に?を幾つも作ることとなった。

「・・・むむっ」

おや、アニスも一体どうしたことやら、真剣な表情でティアを見つめていた。しかも、何かを計るかのように。

「・・・要注意が必要・・・」

何か呟いていたようだが気のせいか。
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