本編

□第十一章
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俺としては何とも言えない妙なやり取りが入ってしまったが、とにかく俺達はタルタロスを降りる準備をし始めた。と、その時だ。

「アイン!」

突然、ドアが開閉された音と共に俺を呼ぶ声が響いた。
音量が音量だっただけに俺を含めた全員が振り向く。するとそこには、ジゼルとルゥナ――少しばかり息が絶え絶えのような――がいた。二人ともいつの間にか乗艦していたのだろうか。タルタロスが着艦したと同時に艦内に乗り込んだのだろうか・・・?

「お、二人ともお疲れ様」

まあ、ともあれ業務に勤しむ彼女等に労いの言葉をかけつつ、そちらに足を向けた。
二人に後一歩寄るところまで来たのだが、俺は思わず眉を曇らせながら後ろに二歩ほど退いてしまった。

「ど、どうしたアイン!?」

俺の行動に驚いてしまったらしいジゼルがにじり寄ってくるが、どうしても体が勝手に、こちらに近寄った分俺は同じ歩幅の分後退してしまう。そんな、状態が十数秒ほど続いた。

「ア、アイン・・・?」
「い、いや・・・気のせいなら良いのだが・・・」

だが、体が反応していると言うことは・・・確かめてみるとするか・・・ならば。
すーはー。

「悪い」

ジゼルにお構いなしに、白く綺麗な首筋に顔を近付けた。

「ア、アイン!!!???」

普通なら有り得ないほどの素っ頓狂な声をジゼルは上げていたが、気にせず集中する。
ふんふん・・・。
二回ほど吸ってみた・・・やはり、か。
続いてはルゥナ。その前にジゼルに声をかけたが、何故か目を勢いよく瞑り、体を強張らせていた為返事がなかった。それはともかく。

「ルゥナ。少し良いか」

とは言え、返事を待たずしてジゼルの時と同様に首筋――ジゼルに勝るとも劣らないほど、綺麗だった――に顔を近付ける。

「せ・・・ふ、副、師団長ぅ・・・」

こちらは、ジゼルと違ってか細い声になっていくが、気にせず作業を繰り返す。
ふんふん・・・。
結果は、黒だった、か。
二人とも、香水の匂いに混じって、鼻に付くほどでもないが、それでも違和感を感じてしまいかねないほどの別の匂いがした。
つまりは。

「二人とも、何だか汗臭いな」
「「なっ!?」」

俺が告げたと同時に金縛りからとけたのか瞬く間に自身の体の匂いを確かめるジゼルとルゥナ。やがて、はっ、とした顔になる二人であった。
そう言うことだ。
いや、無理もない。俺に言われ集合場所であるザオ遺跡へ向かう間、彼女達は砂漠の炎天下をずっと移動――おそらく手段はアリエッタの魔物達だろう――し、今まで待機していたのだ。途中で汗の処理をする、その暇を与えなかった俺の責任だ。
師団員の皆には本当に申し訳が立たない。
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