本編
□第十二章
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――と言うことで。
締めの言葉を告げるとしようか。
「二人とも、いつまでも悪ふざけしているのは、あまり感心できないぞ」
「「はぁ〜い」」
仲良く返事をする双子。基本的に聞き分けの良い二人なのだ。ただ、その相手が俺限定になってしまうのは悩みの種でもあったりするわけである。
そこは置いておくとして。
「ジゼ――リグレットもだ。火種を大きくしてどうする。お前の方が断然大人だろう?しかも、このようなことは毎度のことじゃないか」
「だがアイン・・・わ、私はだなっ!」
柳眉を八の字にさせながらジゼルは何か言いたげに俺に顔を向けてくる。
まただ。こうして俺が仲裁に入ると彼女は必ずといって良いほど物申したいような雰囲気を醸し出してくるのだが、途中で諦めてしまうのが常だ。何故ここは我慢が出来るのであろうか?
まあ、大人と口にしてしまった手前、彼女に無理強いはしていられない。何とかしてあげられないだろうか・・・。
ふと、ある仮説が俺の頭を過った。いや、しかし・・・昔は良くしたものだが今も望んでいるのだろうか。何しろ子供の頃はジゼルがムキになりながらも要求してきたのだ。それこそ有無を言わさずにだ。まあ、断る理由が無かったのと、俺自身がしてみたかったこともあり何度か二人きり――人前で行おうとすると必ず鉄拳が飛ぶ為――の時にその行為を繰り返してきた。思えばタルタロス強奪の時、その兆候があったのかもしれない。あんなに震えていたのだから。
「よし」
そうと決まれば、善は急げだ。すっ、と今にも地団駄を踏みそうな精神が幼いジゼル――それはそれで笑みが溢れてくるものだ――に近付く。
「・・・なぁ、ジゼル」
前例があるので、他の面子に聞こえないように声を絞り、耳打ちをする。
「な、なんだ!?」
声が上擦っている。何をそんなに緊張しているのだろうか?
ともかく、用件だけ手っ取り早く伝えなければ。
「何だったら後で抱きしめようか?お前もハグしてほしいんだろう?」
――ボンッ!
おや、どこからか破裂音が?
「なっ!・・・ななな・・・ななななな・・・!」
「どうした?壊れたように同じ単語ばかり並べて?」
「・・・だ、だって・・・私がしてほしいことを、そんなさらりと口にして・・・」
「何だって?小さくて良く聞こえな――」
「いやあああああああああ!!!!!!」
「――どわああああああ!!」
――どごぉん!
痛つ・・・結局殴られたな・・・どうやら近くの岩にめり込むことになってしまったようだ。
だか何故だ?何故俺が殴られなければならないんだ?彼女の願望を叶えようとしただけなのに?
と言うことはあれは間違いだということなのだろうか・・・?
それもそうか、流石にもう昔のように抱擁を望むわけがない、か。少し残念だ。
「副師団長、大丈夫ですか?」
と、近くで今まで様子見していたルゥナが心配そうな面持ちで覗き込んでくる。埋もれたままになっている俺を引きづり出そうと腕を引っ張る。それほど時間をかけることはなくすんなりと剥がれた。
「サンキュー、ルゥナ。もう大丈夫だ」
傷に関しては治癒術で治してあるわけで、その辺りは周知しているのだろう。それ以上言及することはなかった。
一度安堵の溜め息をついたルゥナだったが、直ぐに別の趣のある溜め息を吐いた。
これは・・・呆れ、か?
「もう。貴方は一体、後何回師団長に殴られれば気が済むんですか?」
「いや、俺も好きで殴られたいわけでは無いのだが・・・」
「なら、今回は何をしたんです?耳元で何か囁いたようですけど?」
むむむ。売って変わってルゥナの奴今日は何時にも増してこと細やかに聞き出そうとするな。表情にも熱が入っている。とは言え、俺の第六感がそれに触れない方が良いと感じているのでここは素直に答えた。
「ただ単に、リグレットの願いを叶えようとしただけだ」
「お願い・・・」
「子供の頃せがまれたことがあってな、てっきり抱き締めてほしいとばかり」
「・・・へぇ、そうですか。アイン先輩は師団長が相手なら人前だろうと関係なく抱き締めることができるんですね・・・しかも、自覚なし・・・ですか」
ん?今何か呟いたような?
と、言うかルゥナからおどろおどろしい影が背後から浮かび上がってきているようなのだが・・・。
「ルゥナ?」
「知りません!」
そのままスタスタとジゼル達のところまで戻るルゥナ。
・・・何故かルゥナまでお冠になってしまった。
理由がまるで分からん。
う〜ん・・・。
もしやカルシウム不足、か?