本編

□第十二章
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街中の移動に専念しつつ、避難民の回復を手伝い、俺は今矢継ぎ早師団員達に指示を飛ばしている。中々に骨であるが全く構わないがな。
ただ――。

「各隊!老人、女性と子供を優先に避難させ、怪我や瘴気に汚染された住民は介護班に回すこと!」
「は、はい!」
「特に酷い症状の時は、必ず俺に一報――ん、んんっ!――してくれ!」
「り、了解しました・・・!」
「気分が悪くなったら遠慮なくタルタロスに戻り、回復に専念するように――っごほ・・・!」
「・・・分かりました!」

皆、動揺して浮き足立っているな。住民に伝播され救助活動に差し支えなければ良いが・・・まあ、そのおかげで俺の体の異変に気付いてはいないようではあるが・・・歩く度痛みが増してくる。瘴気を無意識に吸収してしまう身としてはかなりまずい。事は急を要する。急がなく、て、・・は・・・。
・・・・はっ!あ、危なかった・・・一瞬だけ意識が遠退いてしまった。くっ・・・もういつ倒れてもおかしくないほどにまで蝕まれてしまっているのか・・・俺の超回復や『あいつ』の術では追い付けていない程に・・・取り敢えず、グミを一つかじり、治癒術を施す・・・それでも気休め程度にしかならない、か。
とにかく今は人命救助が先だ。俺の事は、それからで良い。
気を取り直して、ジゼルとルゥナと中隊程の人員等を引き連れ――因みに、双子にはアリエッタの魔物が掘っている穴を譜術で逆サイドから出入り口を拡げる作業にあたっている――鉱山の奥を一向目指していた。この街の指揮者――パイロープ氏だ――が言うには、奥の方の広場にて屈強な体つきの鉱山夫が取り残されているらしい。しかも、そこは一段と瘴気が濃いとのこと。更には、坑道――確かアクゼリュス第14坑道、という名称だったか――内は魔物の巣窟となっており手を焼いており、住民等で救出は不可能だった、と言っていた。
そうして、件の坑道の出入り口へと到着する俺達。ふむ、記憶の中とほぼ同じ箇所にある。
中は心許ない程度しか照明が機能しておらず、奥が良く見えない状況。
うむ。闇雲に突撃したところで、魔物討伐のこなせるかどうかだな。ここにいる皆の力量は信用できるのだが、相手は恐らく暗闇でも問題なく縦横無尽に移動し攻撃できる種類の魔物となるだろうな。ここは時間が短縮できるが、危険を承知で斬り込みに行くか、時間はかかってしまうが、慎重に何列か作り一列一列交代交代でやりくりするか、の二つ。迷うな。

「さてアインどうする?ここ程度のレベルなら全員で突撃すれば、ものの二三時間で魔物を駆逐出来ると私は思うが?」

とジゼル。

「そうだな・・・ただ、灯りが覚束無いまま中に入ってしまっては万が一の時の対策も鈍ってしまう場合を考慮するとその令は出しづらい」
「そうですね・・・」

気を引き締め直すルゥナ。
巣窟、と言うからには相当の大群勢なのだろうことは、パイロープ氏の表情で観て取れていた。幸いにも魔物が徘徊しているのは坑道にのみで、坑夫等がいるであろう広場には群生していないようで。
だが。この先で助けが来るのを今か今かと待ちわびている住民がいるのだ。迷っている暇など最初から無かったのだ。それこそ、俺らしくない。
一瞬、保守的に考えてしまったことを悔いた。それに、ここにいる全員は俺を信じてここまで共にしたのだ。情けない姿は見せられない。ここへ来て何を弱気になっているのだろうか。時間がないのだ躊躇していられるか。
ほんの僅かジゼルに視線を向ける、と彼女と視線がぶつかり何故か向こうから目を反らされた。面を食らったような表情が見えたような気がするが・・・?
取り敢えず、触れないでおいた方がよさそうだな。さておいて、目の前に向き直りそのまま見据えながら俺は口火を切った。

「皆、危険を省みず俺に付いてきてくれるか?この奥にまだ取り残されている住民を救い出すために」

後ろで緊張感膨れ上がる。それは見なくても場の空気がそれ一色に染まっていく感覚があった。しかし不思議と悲観的なものではなく寧ろボルテージが上昇していくような感覚。

「私達第四師団員は、何時いかなる時も全身全霊で、貴方に付き従うことを心情としています!だから!私達に何でも言いつけてください!これは師団員達の総意です!」

と、まるでそう言いたげな・・・いや、実際昔にこれに近い台詞を言われたこともあったか。今もまだその信念は変わっていないようだ。
つまり、それが、彼女達の¨答え¨らしい。
俺はずいぶんと果報者になったのだな。胸に熱いものが込み上げてくる。
そうと決まれば・・・!
振り向いてみれば、やはりこの前のザオ遺跡出入り口付近で見た時と同じような出で立ちであった。

「皆、ここからは苦しい状況に陥るとも思うが、俺を信じて付いてきてほしい。分かっていると思うが少しでも体調不良を起こしたならば、直ぐに俺に報告は絶対にするんだ。分かったな?」
「はい!!!」
「よし、では行くぞ!」
「おー!!!!」
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