本編

□第十二章
6ページ/14ページ

「ん・・・んん・・・は!」

ええい!あれからどれくらい時間が経った?これ以上意識を失っているわけにはいかない!
上半身を起こそうとしたが頭部から激痛が走った。

「痛ぅ!」

その箇所に手を当てようと試みたが、そこで両腕が子供達を守るために塞がっていることを思い出した。
二人とも今も尚目覚めないが、腕に温もりがあり、尚且つ耳を澄ましてみれば規則正しい息づかいが聞こえる。どうやら、一先ず命に別状はないようだ。
良かった。
ホッとしたのは束の間だけ、事態はあまりよろしくないのだ。俺がこの子達を感触でしか容態が如何様か把握できない。それは辺りが暗いからだ。それほど岩石で覆われているということか。
確か、道具袋にペンライト――音素をかき集めて光を産み出すことも出来るが、何分体調が優れないため今回はその案は却下――があったはず。
二人とも、ちょっと失礼するな。
慎重に、抱いている腕を退けさせる・・・ぃよっ、と。

――コトン。

「う、う〜ん・・・あれ、ここは・・・?」

む、今の衝撃で姉の方が身動ぎ、起きだしてしまった。この暗がりでは不安が溢れてしまいかねない。一刻も早くペンライトによる灯りを用意せねば。

「ちょっと待っているんだ。今すぐ明るくして――」
「――うぇ・・・く、暗いよー。何処なのここ?うぅ、お母さぁ〜ん。うわぁ〜ん!怖いよぉ!」

そうこうしている内にぐずり始めてしまった。そして、鳴り響く恐らくは慟哭の泣き声。
いやー、狭い空間だからか、泣き声がよく響くなー。っと、そんな場違いな
感想を浮かべている場合ではないな。

「うぇぇぇ〜〜〜〜ん!!」
「こらこら、いい加減に泣き止やめ」

この子にもアニス程の効果を発揮してくれると信じて俺は、今現在泣きじゃくっている女の子をそっと胸に引き寄せ、落ち着くようにあやす。勿論、背中をとんとん、とリズミカルに叩くのを忘れない。

「ほぉら、もう大丈夫だからな」
「うぇ・・・う・・・ぐすっ」

どうやら覿面だったようで何よりだ、まあ今までこうして抱きしめてあげて更に気が動転してしまうようにはならなかったがな。人間誰かしらの温もりに包まれれば落ち着いてくれるものだ。直ぐに立ち直るかどうかの個人差はあるが。余談ではあるが、アニスだけは赤ん坊の頃から抱き上げ後ほんの一瞬で泣き止むから不思議である。それは今も変わっていない、寧ろ
鼻血を噴出する確率が高くなっていることに対してこの上無く心配ではあったりする。
とりあえずそれはさておいて、だ。
そうしておいて、幾らかしない内に女の子はすっかり泣き止んでいた。

「あ、ありがとうございます」
「ん?もう平気か?」
「あ、は、はい・・・もう、大丈夫、です・・・あ!タクは!タクロナは何処に!?」
「ああ、恐らくその子ならすぐそこに・・・少し待っていてくれ今灯りを点して・・・ほら」
「あ!タク!」

光が点り直ぐ様、ばっ、と俺から体を離し近くで横たわっている弟の元へ向かっていき、無事と分かると、ホッと胸を撫で下ろす。

「よ、よかったぁ〜」

本当に・・・ほんの少し前まで、わんわんと泣きわめいていたのだよな?目を見張るものがあるなこの変わり映え――こちらが素か――には。姉として――いやそこには兄も姉も関係無い。年長者として年下の人間を守らなければならないという念が誰しも備わっている。弟に弱気な所を見せられない、と小さいながらもその身に感じ取っているのだろう。
推測にすぎないが、先程のあれは不安で仕方なかったのだろう。瘴気に溢れてしまっていた中での生活を強いられ、周りの大人達の不安や恐怖を肌で感じ取っていた、と言うことか。その最中でさえ、まず弟を気にかけているところは実に素晴らしいの一言だ。実に良いものを見せてもらった。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ