本編

□第十二章
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「あ!すみません。助けてもらったのにお礼を言っていませんでした」

と、ペコッと頭を下ろした。
ふむ。良くできた子である。さぞ家族だけでなく他の人間から頼りにされてきたのだろう。

「いや、気にすることはない。それよりも君達に怪我が無くて良かった」
「いえ、でもまだ名前も――っ!」

ん?どうした?振り返った途端、体がまるで金縛りにあったかのように止まってしまったな。

「あ、あ・・・あ・・・!」
「あ?」
「あ、あた・・・頭・・・!」
「頭がどうかしたのか?」

むむ。これは、外見からでは見付けようもないところに障害の感じたのかもしれないな。
と、俺が彼女の頭部を看ようとするよりも先に、俺の方――正確には額の辺り――を震えながら指差し、そして、まるでこの世とは思えぬものを見付けたような声音で俺に告げた。

「頭から血が出てます!」
「君が?」
「お兄さんが!」
「俺?」

いや流石に流血していれば気付けるはず。特にそんな感触は・・・あった。指摘された患部に手を触れ、何とその手には血がベットリと付着していたのだった。まるで気付かなかった。そうかどうりで先程から微妙に頭がくらくらするかと思えば、血が不足していたからなのか。
とは言え、これは・・・あまりよろしくないな・・・。

「だ、大丈夫なんですか?」
「ん?あ、ああこの程度なら問題ない。血は止まっているから大丈夫だ」

本当は今も流血しており、平気でもない話だったりするが、これ以上この子に不安を抱かせるわけにはいかない。ましてや、子供がもう一人いるのだ、悪い状況を産み出さないよう、何でもないように発生源を手で抑え回復術を施しつつ取り繕う。とは言え、それでこの子の不安が払拭されるわけではないのがなんとも口惜しい。
どうしたらいいものかと思考を巡らしていると。

「う、う・・・ん・・・姉さん・・・?」

すぐ側からそんな声が聞こえた。
どうやら前の悲鳴が効いたのか、今まで気を失っていた弟――タクがゆったりとした所作で起き上がるのが見えた。

「タク!気が付いたのね!何処か怪我してない?痛いところとかある?」
「い、いや、僕は大丈夫。あ、僕のことよりもラフィ姉さんの方こそ怪我とかしてない?」

ほぉ。起き抜けに姉――ラフィによる質問攻めに始めは面食らったものの、直ぐ様自分の体の状態を確認した後、相手の事を気遣ってみせた。
それから。

「あ。僕達姉弟を助けてくれてありがとうございました」

と俺に向かい、感謝の意図して丁寧に座りながらも礼までしてきた。
きちんと礼節を弁えている、正しくこの姉にしてこの弟あり、である。まあ、この頃――後で聞いた話だが二人の年齢は姉のラフィが十二、弟のタクが十一との事――アニスは既に大人顔負けの社交性を兼ね備えていたが。まあそれはそれとして。

「あの、お兄さん。怪我の具合はどうですか?まだ痛みますか?」
「ああ、もう平気だ。心配いらない」

ラフィと同様に俺の頭部を見やりながら、似たり寄ったりな表情を浮かべ俺の容態を気にしだす。そこはやはり姉弟か。

「僕達を助けるために怪我をさせてしまって、本当にすみません」
「この程度の傷は毎度だから気にするほどのものじゃないさ」
「そうですか・・・あ、僕はタクロナと言います。此方は姉のラフィリア」
「まずは名前からでしたね・・・」
「俺はアインだ。よろしく」
「「はい。よろしくお願いします」」

と、ラフィリア、タクロナと互いに握手――当然血がベットリと付着していない方の手でだ――を交わしたその時だ。
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