本編

□第十三章
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そして俺達は街の出入口がよく見え、会話もある程度聞き取れるような場所の岩陰に身を潜めた。
こう姿を隠していると不意にジゼルとユミスにメルスが気になってくる。あの水と油な三人は上手くやれているのだろうか。反りが合っていない普段が普段なだけに親交の場を増やしてあげようとその面子で行かせたのだが・・・作戦遂行を疑っているのではない。そちらに関してはジゼルは完遂してくれると俺は世辞抜きで思っている。心配なのは険悪ムードたらたらにしていないかだ。こればかりは、俺の目の届く範囲でなら別段俺が仲裁に入れば問題ないのだが、双子に唆され冷静でいてくれるのかどうかばかりはもう。ジゼルよ、何時までもおちょくられているとその内足元を掬われてしまうぞ。お前の方が歳上なのだから、と毎回毎回口にしてはジゼルのご機嫌取りに勤しんでいるのだが、その時の拗ねている彼女を見ていたかったりする。何せ普段の険が剥がれ落ち逆に態度が子供っぽくなるのだ。これは見ておいて損はない。俺はそんな彼女も結構可愛いと思っている。とは言えこれはどうやら俺の前でしか起こりうることが出来ないのを少し前に知った訳で、理由を聞こうとすれば何
故か一瞬後には体は切り揉み状態で飛びそのまま地面にダイブしているのである。はてさて?
そう言えば、ジゼルにははたまた損な役回りをさせてしまったかな。事前にジェイドを確実に興味を引かせることのできる台詞を言うようにしてあったが、何分悪役のような言葉だからな・・・やはりここは何か感謝の意を形にしてジゼルに贈るべきだな。是非そうしよう。
双子の方もしっかりとジゼルと呼吸を合わせ圧倒的な力の差をルーク達に植え付けられるようにできただろうか。
時間稼ぎをジゼルに任せたが彼女だけではあの六人を相手に一人ではあまりにも可哀想だと思いあの強力な譜術を行使できる二人を付いていかせたのだ。まあ手順としてはまずジゼル一人おり、その後ろで彼らから見えないところに姿を隠している双子が譜術の詠唱を行いスタンバイしておき何時でも術の発動できるようにする。そして、ジゼルが譜術で攻撃しようとするタイミングで問答無用の名の元に譜術の雨を降らせる、という算段だ。これなら奇襲として問題なくとおり、いくらジェイドといえども完璧に不意を付かれた状態なら迎撃できないだろう。尤も、こんな援護射撃を受けずとも私一人でやりきってみせる!と言い放ち俺からの提案を一度は一蹴した彼女だったが、双子がまたまたぼそぼそと耳打ちし急に意見を百八十度真逆にし、請け負った、という何とも、何度も見てきたような光景を見せつつルーク達を迎え撃つため、デオ峠に向かったのである。当然その際に回復用のグミとライフボトル――余程の事が無い限り使われることはないだろうが、まあ念の為に――をルーク達に
と渡しておくのを忘れない。
戦闘で作ってしまったダメージを癒すための時間を発生させる、これが今回の時間稼ぎのコンセプトだ。
これを聞いたときの皆の意見は一様――本当にこう言うときだけ馬が合っているから不思議である――に、やっぱりアインはS、と訳の分からなかったものだったことはここだけの話・・・Sとは何だ?分からん。

「あ、先輩」

とんとん、と俺の方の辺りを叩き気付かせたルゥナが前方を指差す。
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