本編

□第十四章
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「・・・ぅ・・・」
「・・・ん?」
「すー・・・ん・・・すぅ・・・」

はて、何処からか微かに寝息が聞こえる・・・むぅ・・・どこだ?
その音のする方へ、良く目を凝らせば、少し離れたところ――その表現より、もっと的確に、部屋のドア付近の方だと話せば分かりやすかったか・・・?――の椅子に座りながら腕と足を組み器用に眠っている人間のシルエットが・・・お、そこにはジゼル。

「・・・ん・・・ぬぁ・・・く・・・ぅ・・・ん・・・」

お、崩れ・・・ない、か。
彼女は、かくかく、と体を揺らしつつ絶妙なバランスでその体勢を維持していた。しかも、起きる気配はないと来た。そう言えば、ジゼルはベット以外のどのような場所――例えば、今座っているような丸椅子や背凭れが付いている椅子やらだ。後は気の木陰も該当するな・・・お、そうだそうだ俺にもたれ掛かった時もそのままの体勢だったな。その時はものすごい幸せな寝顔だった、か――であろうと、寝転けて落ちてしまう、等と言うことをやらかさない人間だったな、つい忘れていた。寝相は決して悪くはない――小さい頃はそうでもなかったがな――のだが、何故かそれらから落ちた試しはなく、危なっかしいまま何とかかんとかと言った風で体勢を維持し続けていたりしている。まあそんな特技(?)を持つ彼女のその意外と可愛い――常時気を張っているような振る舞いをするのだが、俺と二人っきりの時と眠っている時だけは別で、まるで少女のようなあどけなさが浮き彫りになってくる、という話はここだけのこと――と思える姿に思わず微笑む俺がいた。まぁ、ジゼルに言うと怒
られそうなので、決して口にすることなく心の中のフォルダにそっとその姿を永久保存だ。
む、案外俺にも詩人の才能があるようだな。ふふふ。
しかし――。

「・・・ん・・・ア・・・イン・・・」
「ジゼル?」

一瞬ジゼルが突然目覚め俺を呼んだのだと思ったがそうではなかった。

「・・・アイン・・・死ぬな・・・死んじゃいやだ・・・アイン・・・」

それが寝言だとすぐに分かったが、問題はその言葉の後にジゼルの目尻から光――いや涙が一筋零れた。苦悶の表情を浮かべながら。
もしかすると、幾度となく夢見にあらわれてしまっていたのかもしれないな。
またしても心強い相棒に心配をかけてしまったな。これはこれは、また怒られてしまうこと請け合いだ。
その涙を拭いとってやりたいと今日ほど強く思ったことはなかった。そして、その華奢な体を強く抱き締め頭を撫でてやりたいとも・・・こうすれば、ジゼルは大人しく――数年前までは大事な場面に赴くときはいつも決まって狼狽している彼女にとっての特効薬になっていたくらいに。今はそれほどでもなくなってしまい、少しばかり寂寥感を覚えたのはここだけの話だ――なってくれるからな何故かは知らな――。

ビュン!!

んん!?

ザクッ!!

な、何だ?今何かが頬を掠めて行ったような気がするが。丁度俺の真後ろ辺りの壁にそれが突き刺さるような音も聞こえたわけで・・・と、思わず振り替えればだ、なんと、壁に教団支給のナイフが刀身を半分埋めた状態で突き刺さっているではないか!寧ろ抉れているようにも見えかねないほどに。
更に頬が熱く、鉄の臭いがする。皮膚が切れたか・・・まぁ、この程度であれば自動的に治癒してくれるので問題ないが。
あのナイフは一体どこから飛来してきたと言うのだろうか?少なくとも外部の犯行ではないはずだ。そういった類いのものは俺の関知能力により事前に察知でき、どこに外敵が存在するかハッキリと知ることができる。今回はそのような気配はまるでなかった、つまりこの部屋にいる人間の仕業となるのだが。
線上で繋いでみると、その先には今も就寝中のジゼルがいた・・・と言うことは、彼女か?・・・いや、まさかな・・・先程より腕が若干位置が変わっていたとしてもそれはないだろう。あはははは。
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