本編

□第一章
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ここで一つ問題が出た。
ダアトから急いでやってきたもんだから、食料の調達をしなければいけなかった。
森に入る前に、一度エンゲーブの村に寄ることにする。
そこでめぼしいものを買っていると、とある噂が俺の耳に入ってきた。
内容を纏めるとどうやら食料庫に泥棒が入ったようだ、しかも時期は北の森で家事があってからとのこと。北の方に脱走兵がいるんじゃないか、とか漆黒の翼の仕業、等村の住民達が次々と推測を並べている。果ては森に棲息するチーグルにまで嫌疑がかかった。

「チーグルは主に自生する草や茸を食べる生物で、人間が食べているものには手を付けないんじゃないか?」
「ん?見かけない顔だな・・・?」
「あ、あんた一体・・・?」

しまった。ついつい口を挟んじまった。さりげなく情報収集するはずだったのだが、矛先が人間から離れれ、尚且つチーグルに向いた時点で教団員の性か話に参加してしまった。
いくら悔やんでも悔やみきれないが、ここで口ごもるとかえって怪しまれる。足止めになってしまっては求も子もない。
懊悩すること一瞬、俺は口をあけた。勿論愛想のいい顔でだ。

「ただの旅人だ。この村には物入りにたった今寄らせてもらっただけだ」
「はー、こんなところに。悪いね、引き留めたりしてさ」
「ゆっくりしてってくれよ旅人さん!」
「それよりもあんたチーグルの事、詳しいんだな。何か調べてるのかい?」

あっさりと信用してもらえた。泥棒と関係ないとわかった途端に矢継ぎ早と飛び交う言葉の嵐。
このご時世、魔物が跋扈するようになってからと言うものわざわざ好き好んで、街の外に出る人間は少なく、ましてや俺みたいに一人旅をする輩はあまりいない。更にこのような、まあ言いにくいが、何もないところに足を運ぶ者はいない。余程珍しいことなのだろう、おかげで特に怪しまれることなく手厚い歓迎から解放されたのは、更に30分後だった。


ふぅ、危ない。
これ以上この村に留まってしまえば、身動きが取れなくなってしまう。
食料を手に入れたわけだから、ここの住民に悪いが早々に立ち去るとするか。
それにしても、ここの食材の安さといったらないな。思ったよりも安値で買うことが出来たし、品質も申し分ない。
流石は『食料の村エンゲーブ』。是非ともその農業技術に肖りたいモノだな。
と考えながら、村を出て北にあるチーグルの森に向かった。
しかし、今の時間だと直に暗くなってしまう。宿をとればよかったな、まあ野宿でも一向に構わないけどな。
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