本編

□第五章
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俺が瘴気にあてられ意識を取り戻したその後、事あるごとに休憩を挟みながらゆったりとした歩調で進むこと約三日。漸く砦が見えてきた。

「結構かかったな」
「本当はもっと早く着けたんだがな」

俺の言葉に罰が悪いかのように頭をかくガイ。
予想より遅延した理由は主に俺にある訳なんだが。俺は問題無いと申告している、が全く信用しようとはせず、休憩を奨めたのはこのガイを筆頭にルークもティアもその意見に賛同し、ジェイドも正論を言ってきた為、なし崩しに休みを何回もすることとなった。まあ、イオンの体調もあったから、不必要だったわけでは無かったが。
とにもかくにも。無事に国境の砦カイツールへと足を踏み入れた俺達だったが、さてアニスはどこにいるか・・・。

「・・・なんかピリピリしてんな」

俺がアニスを探している横でルークがそうポツリと呟いていた。俺は慣れているため特に問題無いが、この独特の張り詰めた空気を感じたかもしれない。
何故このような空気をしているかは、ジェイドが淡々と説明していた。
この付近に豊富な資源を誇る《アクゼリュス鉱山》と呼ばれる場所があり、しかも場が悪いことに国境付近に位置しているためその鉱山を巡りマルクト、キムラスカの間で睨み合いをきかせている。
今は俺達師団が無理矢理介入した前の内戦以来小康状態が続いているが、介入する前はそれは酷かった。一般人が立ち寄れる空気ではなかったな、あれは。
全く、アクゼリュスが今危険な状態であるという状況であろう、今もまだいざこざが起きていようとは何とも物悲しい。
そんな俺の横で話を続けるルーク達。

「それでも、以前は貴族の別荘地だったよな」

ガイの言葉に、ジェイドは、ええ、と答えた。

「そのようですね。海岸線の美しさは目を瞠るものがありますから。ま、流石にこの緊張状態では保養という気分にもならないでしょうから、ほとんど廃墟同然と聞いています」
「そうなのか?」

ルークの相槌にガイが、ああ、と頷いた。

「この付近は両国の最前線で、争いが絶えないわけだろ?だから休戦を機に暫定的な非武装地帯を設定して両軍が駐留するようになったんだ。一旦戦争になれば、ここは戦場になる。そんなところで保養どころの騒ぎじゃないだろ?」
「なるほどな、だから軍人しかいないわけか」

そう呟いて回りを見渡すルーク。
ガイが言っていたことに若干のブレがあることに気付く。
避暑地として、賑わっていたであろうこの一帯は、休戦時に暫定的な非武装地帯を設けたと言っていたが、少し違う。
実は休戦時でさえ、どちらの軍がどれほどの土地を要するかで一悶着があった。お互いが譲歩して半分半分で分ければ穏やかに事が進むところを、何があったかは詳しく知らないが、マルクト、キムラスカ両軍とも譲り合いの精神を捨て、宣告も無しにいきなり互いの領地へと進行、内戦へとその規模を拡大していったのだ。無論、その被害は軍隊だけでなく平野部は焼け野原と化してしまうほどの、もはや内戦という括りだけでは済まない程の事態へと昇華していた。
自然と均衡状態となり、今よりも人体に影響が表れかねないほどの緊張感の中、特に決定打もつけられないまま数ヶ月。漸くダアトに軍隊の派遣要請が両国から沈静の依頼が殺到するようになった。しかし、依頼の受理をモースが受け付けるわけもなく、奴の手元で消されてしまうこととなり、内乱は酷くなる一方。
見兼ねた詠師職の一人がクビを覚悟に俺の元に事情を打ち明けてきた。それを聞いた俺は一目散に現地へ赴いた。スピーディーに事を進めるため少数精鋭の人材(この頃アリエッタが既に導師守護役に就任していたため、彼女と一緒に魔物を移動手段として活用し予想以上早く到着できた)と共に非公式で強引に両軍の間に割って入り、何とか鎮圧することができたが、問題の領地についてどのような配分にするか残っていた。そこで俺はイオンをこっそり連れだし、勝手に今の国境を設定し、更には非武装地帯をあらかた決め、とどめにイオンが、もしこれに不満があるなら、ダアトが総力を結集し両国の軍隊を壊滅更には領地脱退を命じると脅しをかけ、両軍を黙らせ事なきを終えた。
これが後の、《アイオンの役》と呼ばれることになろうとは当時は思いもしなかったがな。
しかし、何とも愚直なネーミング・・・まるで、俺と当時のイオンが起こしたみたいだな。人伝手でそのように広まってしまった訳でどうしようもなく。後特にイオンが反対しなかったといのもあり、不本意ながらその呼称で通ることになる。
地方では俺の名を出すだけで恐れられているらしい。複雑な心境だ・・・。
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