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□雨の音
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雨の音で眠れない。

静かな部屋の中では外から聞こえる強い雨の音と枕元の時計の規則正しい音だけが聞こえていた。
横になってから目をつむってみても一向に眠れない。
短針は3を過ぎたところだった。冴えきってしまっている目を開けてただぼんやりと部屋の天井を眺めてみる。

特に何かあるわけでもないただの壁。
最近はいろんなことがありすぎた。
忙しさのなかであいつを忘れたふりをしてきたが時間が余るようになってしまったいま、思い出されることが多くなった。

こんな雨の日にも関わらず会うために外へ出たのに結局電車が止まって会えず部屋に戻りずっと電話していたこと、外出先での雨に予定が狂ったこと、傘を忘れて二人で一緒に入ったこと。
雨ばっかりだったな、ふと苦笑いともつかない笑みがこぼれた。

今頃あいつはぐっすり眠ってこんな大雨にも気付いていないだろう。
寝返りを打って再び瞼を下ろす。
浮かんでくるあいつの顔をいつものようには消さないで、肌寒さに縮こまった。
あたしはあいつの体温を忘れたくないのに、きっとどんどん思い出せなくなっていく。
そんなことがたくさんあって、あたしの中のあいつもあいつの中のあたしも小さくなるんだろう。

ただ、消えないように。
なくならないように。
それだけを願った。

今だけ、みんなも、あいつも、きっと寝ている今だけ思い出させてて。
いつか忘れるこんな思いを精一杯抱きしめて、もう一度寝返りを打った。

いつのまにか部屋の中は時計と自分の心臓の音だけになっていた。


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