嘘つきハニー

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その日の夜、食堂に集合した生徒たちは思い思いに過ごしていた。

ガタガタガタ

すると急にテラスに続く窓が揺れ始めた。

生徒たちは静まり返る。

ガタッ

ギシギシ

その後も突然肖像画が傾いたり、寮がきしむ音が聞こえたりしてくる。

プツッ

そしてブレーカーが落ちたかのように突然電気が消え、クーラーもテレビも点かなくなった。

「!」

暗いところが苦手な桃真は怖くなって目を瞑った。

「桃真、大丈夫?」

「…な、なんとか…」

心配する萱島にそう返して見るものの、実際は大丈夫じゃなかった。

「大丈夫じゃないでしょ。こんなに震えてるのに…」

萱島には全部お見通しで、震えている桃真の手を握りながらそう言った。

「落ち着くまでこうしててあげる。」

「…………どーも。」

優しく笑う萱島を直視できないまま、桃真は礼を言って手を握り返した。

「(…ドキドキするのは暗いのが怖いから…だよね?)」

心の中でそう呟いてチラリと萱島を見ると、目が合いそうになったので、慌てて目を背けた。






















「お前ら…食堂の幽霊の話知ってっか?」

明かりとして蝋燭に火を点ける難波の言葉にほぼ全員が耳を傾けた。

蝋燭は少しの風にさえ靡き、ゆらゆら揺れる光は怪談にぴったりの雰囲気を醸し出している。

「その昔、あと半年で第二次世界大戦が終わる頃…」

難波な静かな口調で話し出す。

「食糧難の時代だ。この学校の生徒たちも日々、腹を空かせていた。」

「な、なんか雰囲気でてるな…」

桃真の隣にいた芦屋が小声で桃真に話しかける。

「だね。」

「来海は平気なのか?こういう話。」

芦屋に尋ねられ、桃真は「暗いのは苦手だけどね。」と返した。

「ある夜、何人かの生徒たちが、保管していた缶詰をこっそり食べようとした丑三つ時…」

ボーン

難波が話を続けていると急に時計が鳴り響いた。

「「「「うわー!」」」」

生徒たちは騒ぐ。

「ふわぁ…」

そんな中、ようやく落ち着いてきた桃真は小さく欠伸をしていた。

「寝れそうなら寝たら?手、握ったままでもいいし。」

「…うん…ありがと。」

まだ続く難波の話を子守唄のように聞き、繋がれた手に優しい温もりを感じながら桃真はゆっくり目を閉じた。

「B29がその命を奪った。その後も空襲の夜になると、腹を減らした学生の幽霊が…」

カランカラーン

ちょうどいいタイミングで缶が転がる音がして、生徒たちは再び叫び声を上げる。

その缶を蹴ったのはシェフで、わけの分からないことを言うと難波に懐中電灯を渡して帰って言った。

「まぁ要するにだ。停電したから業者が来るまで電気は使えないってことだ。まぁ仕方ねぇ、寝ようぜ。」

難波の言葉を合図にみんな布団に入り始めた。

萱島はすでにぐっすり眠っている桃真を布団に寝かせてから、その隣の自分の布団に入る。

「…来海って…寝顔かわいいんだなぁ。」

桃真と頭を向かい合わせにして寝る体勢に入った芦屋は桃真を見てそう言った。

「それ、桃真には言わない方がいいよ。怒るから。」

「そう言えばそうだったな!じゃ、おやすみ。」

芦屋は布団に潜って言った。

「…いつまで隠す気なんだろ…」

萱島は桃真の寝顔をじっと見つめながら、誰にも聞こえないくらいの声で呟いた。

























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