嘘つきハニー

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『と言うわけで我が学園もあと30日。転入先を決めるタイムリミットも来るのでね、各自希望を書いて提出すること。いいね?』

そう言って桜咲の理事長の桜彦からの映像は切れてしまった。

「オスカー、我々は何をしましょう。」

「そうだな…第3寮、美の具現者である我々が一致団結して臨むにふさわしい何か…学園存続に貢献できる何か…」

「我らは大和魂を持ってこの学園のために体を張った戦いを挑む!」

姫島の言葉を遮って天王寺がそう言うと1寮の生徒たちは「おす!」と気合を入れた。

「相変わらずワンパターンなヤツだ。」

「黙らっしゃい!男は黙って結果を出すのみぞ。」

ヒュー

ドサッ

呆れる姫島に言い返した天王寺の頭を上から落ちてきた本が直撃した。

天王寺はパタリと倒れる。

「え。どっから落ちてきたの?」

桃真が上を見るが、そもそも上には天井しかなく、どうやって本が上にあったのか不思議である。

「学園の歴史を記した書物みたいですね。」

久しぶりのあのポーズで萱島が本に手を翳して言った。

難波がパラパラページを捲ると、長年の埃が舞い、生徒たちは咳き込んだ。

本は難波から中央を経て萱島に回ってくる。

萱島の隣に立つ桃真は袖で口と鼻を覆いながら本の内容を覗き込む。

「“学園存亡の危機”って…今だけじゃなかったみたいです。戦後の混乱期、この学園は潰れかけた。そして、生徒たちはダンスを披露する会を開いて寄付を募り、学園を残すことができた…」

「寄付…か。でも学園を存続させるために必要な額って…相当だよね…」

本を読んで要約すると、桃真が素朴な疑問をぶつける。

納得しかけていた生徒たちも「そう言えば…」と不安そうになった。



















コンコン

「はい。」

ガチャ

「芦屋、お帰り。」

芦屋が返事をすると、入って来たのは桃真だった。

「来海。ごめんな?来海にまで心配かけちゃって…」

「いいよ。慣れたし。」

桃真はそう言いながら中に入って来て、ベッドの脇に座った。

芦屋は「慣れたって…」と文句を言いながらも笑っていた。

「実はさ、最初に廃校が決まった時はどうでもいいって思ったんだ。っていうか最近まで受け入れるしかないんだって思ってた。」

「え?」

急に真面目な話を始めた桃真に芦屋はキョトンとする。

「でも今は、桜咲が無くなって欲しくないって思ってる。そう思えたのは芦屋のおかげだよ。」

「な、なんだよ急に…」

褒められたような気がして照れる芦屋。

「そろそろ昼ごはんの時間だよ。食堂行こっか。」

「お、おぅ!」

桃真がそう言って階段を下りていくと、芦屋はとりあえず頷いて立ち上がった。




















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