short
□君の高い身長を
1ページ/1ページ
俺には最近気に食わない奴がいる。
そもそもの原因は1週間前、係り決めの時に事件は起きた。
俺は楽そうな係りに立候補したんだが、もちろん他にもたくさん立候補した奴がいて、じゃんけんになった。ん?結果?連敗だよ、この野郎。ことごとく連敗したよ。おい、浜野、笑ってんじゃねぇ。
「じゃあ、あと残ってるのはー…倉間とみょうじか。はは、お前らじゃんけん弱いなー」
うっせーよ。ってかみょうじも連敗かよ。
「んじゃ、お前ら黒板係りなー」
途端に周りから笑う声がする。つか、ぜってぇお前ら俺の身長について笑っただろ。俺は一番大笑いしている浜野を殴り、黒板の決定のマークを見てため息を吐いた。
正直、みょうじと話したことは一度もない。静かな奴なんだけど、速水みたいなオドオドした感じは全く無くて、凛としてる、それが印象的だった。
そう、そこまでは良かった。印象も殆ど変わらない。問題は、黒板を消す時に起きる。それも毎時間だ。
何が問題かって、みょうじの身長が高い、というのが大問題だ。
まあ、俺は黒板の上の方が届かない訳だが、みょうじはそれを無言のうえ、無表情でそれをこなす。要するに、毎時間コンプレックスを刺激されている訳だ。それも女子に。
「しょうがなくね?倉間の方がちっちゃいんだし」
「そうですよ。それに高いところやってくれるんでしょう?良かったじゃないですか」
「お前らにはこの気持ちがわかんねーよ」
浜野や速水にもこう言われる始末。別に気にしなきゃいいだけの話なんだけど。でもなぁ…。
すると、ケータイにメールが入ってるのに気付いた。それは母からのメールで、帰りに近くのスーパーのタイムセールで買ってきて欲しいというメールだ。スーパーのタイムセールとか、イジメか。
しょうがなく、学校の帰りにスーパーに向かう。
「めっちゃ混んでるし…」
この勢いのあるおばちゃん達から勝ち取れっていうのか。
しゃあねぇ、腹をくくろう。とりあえず、卵から行くか。
「あ、倉間くん」
知らない声が俺の名前を呼んだ。声がした方を見ると、
「え…?みょうじ?」
なんでここにいんだよ。ていうか授業で答える時以外、初めて声を聞いた気がする。
「タイムセール、」
「は?」
「でしょ?今日久しぶりに安売りしてるから凄い混んでるね」
そう言ってみょうじは卵に群がるおばちゃん達の山を見つめる。
みょうじの声は予想以上に透き通った声だった。少し、聞き惚れてしまった。
「じゃあ、行こうか」
いきなりみょうじの眼がまるで狩猟をするかのように、ギランと光った。そんでもって、俺の腕を掴む。え?何?
「って、ぎゃあああああああ!」
次の瞬間俺は腕を引っ張られて、おばちゃん達の大群の中に引きずりこまれていった。
むぎゅう。ちょっ、狭っ。つーか、押すな!
「倉間くん、卵何パック?」
「い、一パック」
大声の問いに俺も大声で答えた。今考えるのもあれだけど、みょうじそんな大きな声出せるのかよ。意外過ぎる。すると、今度はみょうじに押されて大群の中から出た。
「はい」
「さ、サンキュ」
「あと、何?」
「えっと玉ねぎと、牛乳と魚」
「んじゃ、買う物一緒だね。ちゃんとついて来て」
というか、お前腕引っ張ってんじゃねぇか。問答無用って事か?つか、男前だな。
結局、みょうじに助けて貰いながら、全ての食材を買うことが出来た。何者だ、お前は。
で、何故か俺は今みょうじと帰っている。どうしてこうなった。
「聞きたい事あるんだけど、いい?」
「ああ」
「私の事嫌い?」
「は?」
余りにも無表情で聞くから、逆に驚いてしまった。
「黒板消しの時、睨まれてるような気がしたから」
直球だな、おい。てか、俺睨んでたのか。無意識だった。
みょうじが真っ直ぐに俺を見る。何となく目を逸らしにくくなって、そのまま目を逸らさずに言った。
「嫌いじゃねーよ。その…無意識だ。悪い」
何か今になって、何であんな事で苛々してたのかわからなくなった。それでも、今俺がみょうじを見上げてるのは変わらない事実で、やっぱりちょっと悔しい。
「…そう。ならいい」
気のせいか、少し表情が緩んだような気がした。…多分気のせいだな。
「あ、私こっちだから」
指を差して、俺の帰り道とは違う道を差す。
「ああ。…ありがとな」
俺がそう言うと、みょうじは首を少し傾け微笑んだ。
「どういたしまして。じゃあね」
そう言って微笑んでる彼女に思わず見惚れる程、その表情は酷く綺麗で俺はその場で立ち尽くしてしまった。ああ、やっぱり何か悔しい。
君の高い身長を
(追い越したい、と、思ってしまった)
_