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□君の高い身長を
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俺には最近気に食わない奴がいる。
そもそもの原因は1週間前、係り決めの時に事件は起きた。




俺は楽そうな係りに立候補したんだが、もちろん他にもたくさん立候補した奴がいて、じゃんけんになった。ん?結果?連敗だよ、この野郎。ことごとく連敗したよ。おい、浜野、笑ってんじゃねぇ。


「じゃあ、あと残ってるのはー…倉間とみょうじか。はは、お前らじゃんけん弱いなー」


うっせーよ。ってかみょうじも連敗かよ。


「んじゃ、お前ら黒板係りなー」


途端に周りから笑う声がする。つか、ぜってぇお前ら俺の身長について笑っただろ。俺は一番大笑いしている浜野を殴り、黒板の決定のマークを見てため息を吐いた。
正直、みょうじと話したことは一度もない。静かな奴なんだけど、速水みたいなオドオドした感じは全く無くて、凛としてる、それが印象的だった。




そう、そこまでは良かった。印象も殆ど変わらない。問題は、黒板を消す時に起きる。それも毎時間だ。
何が問題かって、みょうじの身長が高い、というのが大問題だ。
まあ、俺は黒板の上の方が届かない訳だが、みょうじはそれを無言のうえ、無表情でそれをこなす。要するに、毎時間コンプレックスを刺激されている訳だ。それも女子に。


「しょうがなくね?倉間の方がちっちゃいんだし」

「そうですよ。それに高いところやってくれるんでしょう?良かったじゃないですか」

「お前らにはこの気持ちがわかんねーよ」


浜野や速水にもこう言われる始末。別に気にしなきゃいいだけの話なんだけど。でもなぁ…。
すると、ケータイにメールが入ってるのに気付いた。それは母からのメールで、帰りに近くのスーパーのタイムセールで買ってきて欲しいというメールだ。スーパーのタイムセールとか、イジメか。
しょうがなく、学校の帰りにスーパーに向かう。


「めっちゃ混んでるし…」


この勢いのあるおばちゃん達から勝ち取れっていうのか。
しゃあねぇ、腹をくくろう。とりあえず、卵から行くか。


「あ、倉間くん」


知らない声が俺の名前を呼んだ。声がした方を見ると、


「え…?みょうじ?」


なんでここにいんだよ。ていうか授業で答える時以外、初めて声を聞いた気がする。


「タイムセール、」

「は?」

「でしょ?今日久しぶりに安売りしてるから凄い混んでるね」


そう言ってみょうじは卵に群がるおばちゃん達の山を見つめる。
みょうじの声は予想以上に透き通った声だった。少し、聞き惚れてしまった。


「じゃあ、行こうか」


いきなりみょうじの眼がまるで狩猟をするかのように、ギランと光った。そんでもって、俺の腕を掴む。え?何?


「って、ぎゃあああああああ!」


次の瞬間俺は腕を引っ張られて、おばちゃん達の大群の中に引きずりこまれていった。
むぎゅう。ちょっ、狭っ。つーか、押すな!


「倉間くん、卵何パック?」

「い、一パック」


大声の問いに俺も大声で答えた。今考えるのもあれだけど、みょうじそんな大きな声出せるのかよ。意外過ぎる。すると、今度はみょうじに押されて大群の中から出た。


「はい」

「さ、サンキュ」

「あと、何?」

「えっと玉ねぎと、牛乳と魚」

「んじゃ、買う物一緒だね。ちゃんとついて来て」


というか、お前腕引っ張ってんじゃねぇか。問答無用って事か?つか、男前だな。
結局、みょうじに助けて貰いながら、全ての食材を買うことが出来た。何者だ、お前は。
で、何故か俺は今みょうじと帰っている。どうしてこうなった。


「聞きたい事あるんだけど、いい?」

「ああ」

「私の事嫌い?」

「は?」


余りにも無表情で聞くから、逆に驚いてしまった。


「黒板消しの時、睨まれてるような気がしたから」


直球だな、おい。てか、俺睨んでたのか。無意識だった。
みょうじが真っ直ぐに俺を見る。何となく目を逸らしにくくなって、そのまま目を逸らさずに言った。


「嫌いじゃねーよ。その…無意識だ。悪い」


何か今になって、何であんな事で苛々してたのかわからなくなった。それでも、今俺がみょうじを見上げてるのは変わらない事実で、やっぱりちょっと悔しい。


「…そう。ならいい」


気のせいか、少し表情が緩んだような気がした。…多分気のせいだな。


「あ、私こっちだから」


指を差して、俺の帰り道とは違う道を差す。


「ああ。…ありがとな」


俺がそう言うと、みょうじは首を少し傾け微笑んだ。


「どういたしまして。じゃあね」


そう言って微笑んでる彼女に思わず見惚れる程、その表情は酷く綺麗で俺はその場で立ち尽くしてしまった。ああ、やっぱり何か悔しい。





君の高い身長を



(追い越したい、と、思ってしまった)





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