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□空と君と屋上と
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4時間目が終わるチャイムが鳴って、私は教科書を片付け席を立った。
何となく1人で昼ご飯を食べたくなり、購買へ向かう。いつもは誰かかんか一緒に食べたりしてるんだけど、天気も良かったし、屋上で食べたくなった。
購買で買ったパンと飲み物が入った袋を手にして、屋上までの階段を上がっていく。誰かいたらどうしようか。まあ、カップルとかだったら退散することにしよう。居づらいし。
そう思いながら、ガチャと屋上へと出るドアを開く。
「誰もいない、か」
扉を閉めて、適当な場所に座る。フェンスを背にして、もたれ掛かり足を投げ出した。袋からイチゴ・オレを取り出しストローを刺す。
ストローに口をつけた所で、何か話し声が聞こえた。
?…何処から?
周りを見当たしても勿論ここに人はいない。まさか、と思い、後ろを振り向き下を見る。ああ、いたいた。
少し見にくいけど、視力2.0を侮らないで欲しい。恐らくあれは…、うちのクラスの南沢だ。一緒にいるのは知らない女子。
成る程。告白シーンですか。
体の向きを直して今度はパンを取る。覗き見は良くない。でも、声はどうしようもないから、ま、聞こえたと言うことにしよう。
南沢は時たまくらいしか話をしないけど、何かとよくモテるのは知っていた。だから、
「悪い」
彼が断ったのは意外だった。言っちゃ悪いけど、女遊びしてそうだったから。うん、ごめん。人間見た目で判断しちゃいけないね。
思わず、また振り返り下を見た。女の子は何かヒステリックにつらつらと言葉を並べる。
彼女いないんでしょ?なら、私と付き合ってよ!なんて声が聞こえた。
おお、しぶとい。ああいうのって大変なんだろうなぁ。そういう事じゃないんだろうけどね。
ん?覗き見?細かいことは気にするな。あんな所でこんな時間に告白する方が悪い。見てくれと言ってるようなもんじゃないか。
女の子の押しに全く動じず、南沢はそれでも拒み続けた。南沢、正直見直したぞ。
流石にこれ以上は見るのも悪いような気がして、身体を元に戻し、さっさと同じようにフェンスにもたれ掛かった。少しすると、声が聞こえなくなった。どうやら終わったらしい。攻防10分ぐらいか。
可哀想に。貴重な休み時間を削られてしまったか。
私の手にあったパンも、もう食べ終わってしまった。残ってるイチゴ・オレを啜りながら、空を見る。うん。いい天気だ。やっぱり屋上来て良かった。
すると、ガチャという音が聞こえ、扉の方を向いた。南沢…?
「みょうじ」
前言撤回。やっぱり来なきゃ良かった。しかもこっちに近づいてくる。私の1m前で立ち止まり、私に話しかけてきた。
「お前、見てただろ」
「…気づかれてたか。違うよ、“見えた”の」
そうかよ、と返される。南沢は少し距離を開けて私の隣に座った。
何故座る。南沢は持ってた袋からパンを取り出し食べ始めた。
「珍しいな」
「?何が?」
「いつもは教室で食ってるだろ、みょうじ」
「うん。でも今日は屋上でたべたくなって」
ていうか、何で私がいつも教室で食べてること知ってるんだろう。私なんか、周りで食べてる人たち以外、誰がいつも何処でたべてるかなんか気にしてないけど。
「南沢こそ、なんで此処に来たの?」
「せっかくの昼休みが削られたからな。また教室戻るのも面倒だし、それなら購買寄って屋上来た方がいい。…面白い奴もいるしな」
「面白い奴って…私っすか。そんな面白くないよ」
「少なくともさっさ告白して来た奴よりは断然面白いぜ」
「そう?」
面白い?やべぇ、わからん。
特に、と南沢が続ける。
「俺に媚びない所とか」
「南沢に媚びてどうすんのさ」
「ほら、そういうとこ」
ははっ、と指を指して南沢は笑った。あ、その顔、割りと好きかも。
「俺に寄ってくる女子は皆媚びてくるからな。後、さっきの女子みたいにしつこい」
「ねっとりギトギトってやつですな」
私がストローを咥えながらそう言うと、南沢はぶはっと笑った。
え?
「クッ…、ねっとりギトギトって、ぶはっ」
「わ、笑いすぎ」
何だこいつ。普段クールで色気発してるかと思ったら、意外と笑うし。腹抱えて笑ってるし。でも、なんだか面白くて、私も釣られて笑った。
「じゃあ、俺はそろそろ行くかな。みょうじも急いだ方がいいぜ」
南沢は立ち上がって、扉の方へ向かう。私はケータイを開いて時間を確認した。
「えっ、あ、もう後5分?」
やばい、急ごう。ゴミを袋に入れて、私も立ち上がった。南沢は扉に手をかけた所で、私の方に振り返る。
「また今度屋上で」
それだけ言うと、南沢は先に行ってしまった。なーに勝手に言ってんだか。しかも、いつもは私此処で食べてないの知ってる癖に。来いってか。
相変わらず天気のいい空を見上げ、自然と微笑む。
まぁ、たまには来てやってもいいかもしれない。
空と君と屋上と
(あ、授業始まっちゃう)
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