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□もうどうにでもなれ
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あの屋上での出来事以来、私は屋上に行ってはいなかった。それよりも最近は何故か南沢と話したり、会うことのほうが多い。だから今日も友人の奈緒と教室で昼ご飯を食べていた。
因みについこの間テストが終わり、教室中はテストの会話で盛り上がっている。勿論私達も例外ではなかった。
「テストどうだった?」
「まあまあ。奈緒は?」
「…日本史さえなければね…」
彼女は遠い目をしてふぅと溜息を吐いた。他の教科においては私よりいい点をとったりするくせに、日本史で落とすんだから本当勿体無い。苦笑していると、奈緒はそれより、と言って内容を変えた。
「なまえ最近南沢と仲良くない?」
「は?仲良いっていうか、向こうが話しかけてくるだけなんだんだけど」
「そうなの?ちょっとだけ噂になってるわよ」
「え?」
奈緒は卵焼きを頬張り、モゴモゴと口を動かす。ちゃんと食べ終わってから言いなさい。待っててあげるから。
「そんなに広がってないけどね、あの二人付き合ってるんじゃないかー、とかなまえの方が付きまとってんじゃないかーとか」
どちらにもムカつくが、後半が特に意味がわからない。誰が誰に付きまとうだって?言わせて貰えば、それは逆でしょ。
「まあ、なまえのその顔を見る限り、両方ともないんだろうね」
「ないよ」
「…バサッと切ったね」
当たり前。先に奈緒にその情報聞いといて良かった。対策も立てやすい。
「全く、いい迷惑だよ」
「南沢が?」
「…まあ南沢が原因ではあるけど、あいつ自体が悪いわけじゃないし。騒ぐほうがいい迷惑」
「…なまえらしいわ」
彼女はそう言ってクスクスと笑った。私も小さく笑い、紙パックのジュースを手に取った。すると、持っていた方の手が誰かの手に掴まれ、グイッと上がる。
見上げると、南沢がストローに口を付けて一口飲んだ。何処からか女子の悲鳴が聞こえたような気がする。
「ご馳走様」
ニヤと笑い、南沢はスタスタと去って行った。勝手に人の飲むな馬鹿。
「奈緒…。さっきのやっぱ取り下げて。全ての元凶は間違いなくあいつだ」
「なまえも苦労するわね…どうすんのそれ、飲むの?」
「…まだ半分残ってるから飲む」
不本意ながら間接ちゅーとやらをしてしまった。っていうか、本当何考えてんだあいつ。
「あ、そういえば聞いた?くじ式部活動交流会があるの」
くじ式部活動交流会。何故か今年から始まった新しい企画で、部の代表がくじをひき、同じ番号が書かれてある部活と二日に分けて、お互いの部活の見学や体験を行う、意味のわからない企画だ。
「あー…今年からの新しい企画でしょ?」
「そうそう。確か明後日からだよね。あれって部長がくじひくんだよね」
「げ、マジで?」
「マジ。なまえって確か茶道部の部長じゃなかった?」
「そういう奈緒もテニス部の部長でしょ」
「まぁね」
うわぁ…最悪だ。そんな一番重要な役、顧問にでも引かせとけよ。ましてやうちは文化系の部活。体育系の部活とは遠くかけ離れてるんだよ。本当勘弁して欲しい。
「…奈緒、せめて奈緒のところがいい…」
「私もなまえに来て欲しいけど…、なまえくじ運ないじゃない」
「そうなんだよねぇ…」
今まで15年間くじというくじに当たった事がない。しかもくじをひくのは今日の放課後らしい。はは、部員の皆期待しないで待っててくれ。
早いもので放課後は直ぐにきた。部活に入ってる人は全員体育館に集まって、適当に並ぶ。因みにうちの部は私含む女子10名、男子2名で構成されている。3年は私しかいなくて、後は全員1、2年だ。
「部長、頑張って!」
「私、サッカー部がいいです!」
「私も!」
「私もです!」
「俺は何も期待してないから、兎に角頑張って下さい、部長」
佐藤くん…君の言葉が一番胸に染みるよ。今度君に美味しいお茶を点ててあげよう。
あとね、サッカー部とか言うけど、競争率で言えばno.1の部活を当てるほど私は運があるわけじゃない。私は初めて自分のくじ運のなさに感謝した。っていうか、サッカー部は嫌だ。
『それでは、各部の部長はステージに出て来て下さい』
「ほら、部長頑張れ!」
ドンと背中を押され、皆が優しい目で私を見る。
ありがとう、皆大好きだ。だから、サッカー部じゃなくても、文句は言わないよね?
そう言うと、女子の方からそれとこれとは別問題、と返ってきた。お前ら私の感動を返せ。
「行ってくる」
それだけ言って、私はステージに向かった。引く順番が決まって私は3番目にくじをとることになった。
『3番目、茶道部お願いします』
私は前に出てくじを引く。番号は6番。この時点では、まだわからない。私が引いたくじを生徒会が回収していく。全ての部がくじをひき終わり、ステージに上がっていた部長達は自分の部へと戻った。皆に何番か聞かれ、短く6、と答えた。
少し時間が経ち、ついに生徒会が結果を口頭で発表していく。
『1番、バレー部と美術部!』
一つ一つの発表に生徒がわぁっと盛り上がる。私はもうそれどころじゃないんですけど。本当、気が気でない。
その後もどんどん発表していく。
「…5番、卓球部とテニス部!」
あー…、やっぱり駄目だったか…。奈緒…、卓球部とか羨ましいわ。
でも次はうちの部だ。どうか、無難な部活とでありますように。
『6番、茶道部とサッカー部!』
あ。テニス部とがいいとか思ったから、その運が外れていやな方へ当たってしまった。自分の馬鹿、あほ、間抜け。
キャーと残念そうな声と、歓喜の声が上がった。勿論歓喜の声は茶道部だ。皆が何故か私に抱きついてくる。
「部長最高!ありがとう!」
「部長ならやってくれると信じてた!」
「流石我らの部長!」
「部長、愛してる!」
「ちょっ、君たち苦しい…ぐえ」
とりあえず、落ち着いてくれ。首がしまる。佐藤くん、苦笑してないで助けて。
ふと、サッカー部を見ると、偶然にも南沢と目が合った。南沢がふっと笑うのを見て、私は思った。
もうどうにでもなれ
(大変だ!部長が呼吸困難に!)
(部長ー!死なないで!)
(お前らとりあえず部長を離してやれって!)
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