エルの夢

□天使の梯子
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実際のところ、どの程度歩いたのかは、ちっとも覚えていません。

何回か、太陽が西に遊びに行き、東から帰って来たように思いますが。何回か空から雨が降ってきましたし、雲のせいで星が見えない日が何回かありましたので、正直、正確にはよく分かりません。
流石に少しお腹が空きましたが、食べられそうな木の実が幾つか生っていましたので、それをもぎって食べながら辺りを歩いていました。
水は側に流れている川がありました。雨が降っていましたが、泥で淀んだりしていません。とても綺麗で澄んでいます。

ある日のことです。
雨が、降りました。

大きな楠の下で、少年は座って雨宿りしていました。
折り重なった枝と葉のお陰で、天然の大きな傘になっています。

座っていると、少し眠くなりました。
最近ずっと歩いていたので、疲れていたこともあります。

少し寝たら大丈夫。
起きたらまた歩こう。

重い瞼を擦ってから、抱えた膝に額をのせて眠ろうとしました。だって凄く眠たいのです。
うつらうつらと微睡み始めたら思考の中で、ふと。

さくり、さくり、と。
草を踏む音が、聞こえました。
そうして、それが傍まで来たので、少年は少しだけ顔を上げました。
瞼が重いのであまり視界は広くありませんが、近づいてきた誰かの足元が見えます。

足は大きいです。
大人の人だと思います。
少なくとも自分の足よりは大きいです。
黒い靴を履いています。

少年が靴から目線をあげていく前に、誰かさんは少年の前で屈みました。

「大丈夫か」

顔を上げました。

すると。
いつか見た、あの天使の梯子の様な。
きれいな、日の光が見えました。

「おいで。凍えてしまうぞ」

誰かさんは、少年を抱き上げました。
彼は随分と上背があったようで、ぐん、と視界が高くなりました。

「どこ行くんですか?」
「どこがいい」
「…あったかいところ」
「なら大丈夫だ」
「ほんとうに?」

ああ、と彼は頷きました。

誰かさんの声はとても温かかったので、少年はそのまま眠りました。


 
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