日溜

□佐倉 雪
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それは、帝人が家族と会った翌日の事だ。


 視界が白く飛ぶ程の発光
青年は思うままに、着飾られた身体を動かし、ポーズを決め、こちらを見つめるレンズに笑顔を送る。

 爽やかな好青年。その言葉がよく似合う笑顔だ。

バシリッ!

「はい、OKでーす!」

そこで、カメラマンの声が上がった。

 途端に、青年は先程と打って変わった固い表情になり、スタスタとマネージャーらしき人物の所へと歩きだす。
周りにいた誰も彼を止めようとする人はいない。彼等にとって随分となれた事なのだ。

「小倉さん!」

「おー雪、おつかれさん」

小倉と呼ばれた茶髪の男性は、もう駆け出さんばかりの青年に労りの言葉をかけた。

 この雪と呼ばれた青年は、佐倉 雪という名前で最近名を馳せている人気モデル俳優だ。
小倉は雪が何を言いたいのかが分かっているらしく、片手を上げて 噛み付かんばかりの勢いで突進してくる雪を制す。

「どうどう。分かってるよ」

「これが終わったら家に帰ってもいいんですよね?!」

「おう、きちんと身体を休め…って聞いてねえな」

小倉の言葉を確認して、雪は、爽やかな好青年から無邪気な好青年へと変わった。嬉しそうに雪は微笑む。
雪の踊りださんばかりの無邪気な笑顔に、小倉も周りにいたスタッフ達も思わず表情筋を緩める。

 雪は、何と言うか、別段、かなりの超イケメン!とかいう訳ではない。
寧ろ普通というか、中のちょっと上あたりというか。
 強いてあげれば、まだ幼げな一面が見れる童顔というのがあるのだまが、だがどこか、大人の色気というものが溢れている。そんな二面性が、人気の一つでもあるのだ。

「雪君、お疲れ様」

「あ、真由美さん!」

衣装係の真由美と呼ばれた女性が、今現在、花を飛ばして舞おうとする雪にそう声をかけた。

「使わなくなった服が出来たから、また貴方のトコの可愛い子にあげたいんだけど、要る?」

「要ります要ります!!」

真由美から紙袋を受け取ると、今度こそ雪は舞い始めた。

 雪の家には、一人の可愛い子供が居るという事がスタッフ達にも認知されている。
その子に。と、雪が家に帰る時等に、服やアクセサリーやお菓子やとあげるスタッフがいるのだ。
真由美もその一人で、雪の専属だからかその回数も多い

 母性本能が開花した女性スタッフ達が微笑ましい笑顔を向けていれば、ふとまた真由美が思い出したように雪に聞く

「そういえば、あの子今一人で池袋にいるんでしょう?大丈夫なの?」

「あぁ、大丈夫ですよ!いつも暇を見てはメールしたり電話したりしてましたから!」

「それは知ってるけど…」

女性としては、可愛い子一人池袋に居る。というのはやはり心配の元なのだろう。
端から見れば、雪よりも雪の周りにいるスタッフの方がその子をしているようにも見える。

「まあ、大丈夫なのは俺が保証するよ。こないだ見に行ったら相変わらず元気だった。
つっても、見に行ったのは夜だけどな」

「小倉さん会いに行ったんですか!?何で俺も連れてってくれなかったんです!?!」

「お前、帰ったら一週間は仕事に出なくなるだろうが。それにお前はちょうど撮影してたし」

ウガーッ!!とキレる雪を片手で抑えながら、小倉はふと思い出した事を雪に告げる。

「そういやあ、お前の従兄弟いるだろ?」

「ん?あぁはい、どうしました?」

「この間行った時、嬉しそうに言ってくれた事なんだがな。
 何か、今回の主な審査が通ったらしいぞ」

小倉がそう言った途端、雪の動きがピタリと止まる。

「他には何か?」

「いや…お前に伝えといてくれ。としか言われてねぇけど」

小倉に告げられて、雪はニッと口角をあげた。

 先程の無邪気な笑顔というわけではなく、だが撮影されていた時のような爽やかな笑顔でもなく、 妙に大人びた優美なる笑顔だ。

その笑顔に、二人は年下な筈のこの青年に、ゾクリとした戦慄が背筋を走ったのを感じる。

「そっかあ。良かった。審査、通ったんだ」

次の瞬間、雪はまた嬉しそうな無邪気な笑顔を浮かべる。
その様子に、真由美はため息をつき、小倉は痒くもない頭を掻く

 ああ、いつもの事だ。いつもの事。

「ああ、早く帰ってハグしたいなぁ!」

今度は、小倉も真由美も同時に肩を落とした。
既に帰り支度を始めている雪に、文句を一つ

((ホント、自重してくれないかな、このブラコン))

言葉にはしない。すればブリザードが吹きすさぶ事は必須なのだから。


 
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