携帯獣

□みずのなかで
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時間軸は、映画よりあと。
ここで出てくるラティアスは、映画で出ていたラティアスです。





ポケモンと人では体温の差に違いがあり、ラティアスは、人より体温が低い。だがレノは、元が人だからか体温は基本的に人間と同じく大体三十六度前後。
だからか、体温の低いラティアスには、会う度によく抱き着いてカイロ代わりにされる事がある。



「相も変わらず、ここは綺麗な所だねえ」
「きゅう!」
「そうだねえ。風も気持ちいいし」

水の都、アルトマーレ内にある秘密の庭。昔からラティアスやラティオス達の憩いの場としてその緑の美しさを保つそこは、レノにとっても癒しを与える素敵な場所だ。
木に座って、ラティアスの頭を撫でる。風が吹いて、かたかたと風車があちこちで軽やかな音をたてていた。

「カノンちゃん達にばれないようにしないといけないのはちょっと窮屈だけど。仕方ないからねえ、姿を見られるわけにはいかないし」

何千何万と生きて来ているレノにとって、他人に見られない、認識されない、というのは一種の処世術となっていた。

「けど、本当に良い風が吹く」

そよそよ。暖かく、心地好い風。
レノは軽く目を瞑り、ラティアスの背を撫でた。

「そう言えばラティアス、君、好きな人が出来たんだって?」
「きゅう!?」
「いや、この間、君の友達から聞いた…、」
「うきゅきゅきゅ!!!」
「え、違うの?」
「うきゅう!!」
「そっかあ…折角ラティアスの恋人が見れると思ったのに」
「きゅ…」

恥ずかしそうに辺りを飛び回るラティアスは見ていると、微笑ましいものがある。
好きな人はできたらしい。ただ、それが誰か、というのは少々、突っ込みずらい。彼女の友人から聞く限り、相手は…人間らしいから。

 −…昔なら、人とポケモンが結婚するなんて極々普通の事だったのに。

複雑だなあ、と零すと、はしゃぎ回っていたラティアスにも聞こえてしまったらしく、不思議そうに首を傾げられた。

「ラティアス、この都は好き?」
「きゅう!」
「そう。俺も好きだよ、この都」

レノはゆっくりと枝の上に立ち上がると、先程から徐々に近付いて来ている足音の方へと目線をやった。

「昔とはまた、大分様変わりしちゃったけど。綺麗な蒼と翠は変わらない…」

そこには、広場の様子を見に来たカノンが、他のラティオスに遊べ遊べと催促されている。

「さて、彼等が意識を逸らしてくれているうちに、邪魔者は退散しよう」
「きゅぅー…」
「…ふふ、ごめんね。また遊びに来るから」

僅かに強い風が、視界を閉ざす。

気付けばそこには黒い彼はおらず、カノンもまた、そこに“知られざるポケモン"が居た事には気付かぬままだった。

「あら、ラティアス、そこに居たの?」
「きゅう」
「こちらで一緒にお話ししましょうよ」

微笑みかけてきたカノンに一つ頷き、ラティアスは…少し後ろを振り向いてから、すい、と降りて行った。



「…相変わらず、綺麗だねえ。君の心は」

ラティアスと別れた後、レノはアルトマーレに来た時の恒例として心の雫の具合の確認を行っていた。一度、怪盗によって汚されてしまったが、今はラティオスのお陰で再び心の雫はアルトマーレを護る結晶として台座の水の中に鎮座している。
不思議な光りを内包し、神秘的な輝かしさを放つ蒼い宝石−心の雫。この結晶を作り出すものの心が純粋で綺麗であればあるほど、その美しさは際立つ。

「…これからも、ここアルトマーレを見守っていてあげてね、ラティオス」

レノは右手に淡い翠の光りを集め、それを、心の雫を包む水面に落とす。それはまるで、心の雫を労るように周りを覆い、柔らかく染み込んでいった。

「…さて、異端者はとっとと退散いたしますか…」

ふわりと浮かび上がり、スーッと体を透明にさせ−レノはどちらかへと消え去った。



「−……また、いらしてくださいね、」

その姿を、木陰からこっそりと見守っていたボンゴレは穏やかな笑みを浮かべて呟いた。











 みずのなかで








今もこれからも、きっとずっと見守り続ける。


 

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