贈り物小説
□それでも好き
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キッチンに立つ男、一柳昴。
「5段重ねのパンケーキが食べたいな…」
彼は今、愛しの彼女が言っていた言葉を実行するべく、官邸のキッチンを借りていた。
作ってあげればきっと、蕩けるようなとびきりの笑顔で美味しいなんて言ってくれるだろう。
(なんなら食べさせてやるのもいいな…)
そんな事を思いながら、パンケーキを完成させる。
「わぁ!5段重ねのパンケーキ!」
「珍しい…よく起きれたな?」
タイミングよくキッチンに姿を見せたのは、現役総理大臣令嬢の彼女である。
「いい匂いがしたから」
「相変わらず食い意地が張ったヤツだな…」
「えへへ、昴さん作ってくれたんですね…嬉しいな」
「おう」
今にも一口目を口にするところで、急に手を止めて廊下に目をやる彼女の視線を追う昴。
「…後藤」
「後藤さん!おはようございます!」
「ああ、おはよう」
視線の先にいたのは、公安課の後藤誠二だった。
「後藤さん、今大丈夫ですか?」
「ああ。どうした」
「あの…」
なぜだろう。
完全に俺の存在を無視していないだろうか。
昴がそう思うのも無理はない。
彼女は今、完全に後藤に目を向けているのである。
これで昴と付き合っているのだから不思議なものである。