贈り物小説
□taste of the happiness
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真新しいワンピースに腕を通して、まだ明けない梅雨空に合わせるのはバレエ型をしたレインシューズ。
お気に入りのそらいろの傘をさして向かう先は大好きな彼の家。
小雨が降りしきる中、到着した玄関に指を伸ばす。
『うわぁー!!!』
まさに今、インターホンを押そうとしたタイミングで室内から叫び声が聞こえてきた。
「そ、そらさん!?」
そらさんに何かあったのかと焦った私はそのままドアノブに手をかける。
鍵がかかっていないドアノブはガチャっと音を立てて簡単に開いた。
「そらさん!?どうしました!?」
玄関に入って慌てて室内に入ろうとするも、なかなか脱げない靴がもどかしい。
「えっ…!?あっ…ゆりちゃん!えっ!?もうそんな時間!?」
私の声が聞こえたのか、バタバタと音を立てて部屋の中からそらさんが出てきてくれて。
「はい。今チャイムを押そうと思ったんですけど…」
そらさんの悲鳴が聞こえてという続きを言おうと顔を上げると、見慣れないその姿に思わずポカンとしてしまう。
「ゆりちゃん?」
言葉の途中で黙ってしまった私のことを不思議そうに見つめるそらさんにハッと我に返る。
「あっ…!えっと…そらさん、それ…」
「え…?あっ!うわー!!!」
私が指摘したそれに、そらさんは物凄く大きなリアクションをして、しまったと肩を落としてしまう。
「えっと…笑わないでくれる?」
少し頬を赤らめて、照れながら彼はポツリポツリとこの状況を説明してくれた。
「ゆりちゃん、いっつもオレの為にいろいろしてくれるでしょ?オレ、すっごく嬉しいんだよね」
だから同じことをしたかったと、照れながら告げる彼の言葉に胸が熱くなってくる。
「でも、ゆりちゃんがくるまでに完成させたかったんだけどなぁ…」
最初から上手くいかないもんだなぁ…なんて笑いながら手を引いて、私をキッチンへと誘導する。
「コレ…」
「うん。ゆりちゃんの為に、オレが作りたかったんだよね…」
「そらさん…」
「でもさ、オレ、料理できないから昴さんに作り方教えてもらって頑張ったんだけど…」
キッチンには上手く膨らまなかったケーキのスポンジに、ホイップ途中の生クリーム。
均等に切られていない苺がたくさん。
流し台には、洗い物の山。
私の歳をかたどった、パステルカラーのろうそくが一つ。
そして、そらいろのエプロンを着て、顔中を粉だらけにしたそらさん。
「今年こそはゆりちゃんの誕生日を二人でお祝いできると思ったら、嬉しくて」
でも、完成できなきゃ意味ないよねなんておどけて笑う彼が愛しくて、私はそのままギュッと抱きついた。
「えっ!?ゆりちゃん!?汚れちゃうよ!!!」
慌てて離れようとするそらさんに抵抗するように、それでも私は必死にしがみついた。
「そらさん…」
一緒に過ごせることが、何よりのプレゼントなのに私の為にいろいろと考えてくれるその気持ちが嬉しすぎて。
「幸せ、です…」
嬉しくて、嬉しくて。
「ゆりちゃん…」
「ね、そらさん。続き、一緒に作りましょう?」
あなたと過ごす、特別な一日はそれだけで幸せなのだから。
「でも…ゆりちゃんの誕生日なのに…」
「だからですよ?」
特別な日に特別な人と一緒に作ったケーキはきっと、忘れられない味になる。
「…わかった。じゃあ、一緒に作ってお祝いしようね!」
「はいっ!」
それから、二人で仲良く続きを作って。
完成したケーキは、歪なカタチをしていて不格好だったけれど。
「ゆりちゃん、誕生日おめでとう!」
「ありがとうございます」
「はい、あーん!」
「えっ…!?あ…あーん…」
「ハハッ!照れちゃって可愛い!」
「も…もうっ!」
世界で一番幸せな味がした。
Happy Birthday! Have a wonderful day and fabulous year.
*END*